潜入
不本意ながらも平和的解決のため、大筋は王バルザールの話を通すこととなった。要するに真犯人 —— 彼らの自作自演だということ —— は黙ったまま話を合わせながらも、最終的には相手にとって番狂わせにもっていく。つまり、自分たちだけで何としても先に二人を救出しなければならない。
そこで、独自に動いて調べるため、ひとまず自由を得ることができた彼らは、普通の質素な幌馬車を用意してもらった。ただ当然、カイルは囚人のままだ。ミーアも残った。そうすれば、より信用してもらうことができる。本来、仲間もみな囚われの身なのだから。
そうして、ミーアのお守りをカイルに任せたほかの者たちは、時間が無いため、用意が整うや、レッドが戻ったその日のうちには出発していた。
それからずっと広い街道を進み、野を越え丘を越えて、やがてビザルワーレ王国の王宮付近に到着した。
そこでさっそく行動を起こした一行は、間もなくシャナイアを忍び込ませることに成功。召使いの制服は、王宮の近くの寮らしき建物に行けば、ズラリと干されてあった。シャナイアはそれを簡単に拝借して、意気揚々《いきようよう》と宮殿内へ入って行ったのである。それを密かに見届けたあと、ほかの四人は、王都にある適当な宿屋へ向かった。そこが彼らのアジトとなる。
それから、まる二日が経っていた・・・。
「夕べも今夜も連絡無しか。あいつ、レトラビアで王宮に慣れてるはずだから、そういう会議が行われそうな部屋がある場所の、だいたいの見当くらいつくはずなんだがな。」
四人分の珈琲を淹れ終えたレッドが、自分の分を持って椅子に落ち着くと言った。
すでに同じテーブルの席に着いているほか三人の目の前には、レッドが先に配った珈琲カップが置かれていたが、誰もまだ手をつけてはいなかった。ただ一様に、唸り声でも聞こえてきそうな顔をそろえている。
彼らの方でも、何の手がかりもつかめないまま無駄に時を過ごしていた。この二日間、レッドとリューイは王宮の周辺を見回って人の出入りを調べてみた。外からの情報が何か得られはしないかと。
一方、エミリオとギルは、ビザルワーレ王国の地域図から、王子たちが監禁されていそうな場所を割り出そうとしてみた。だが、どの行動も有力な手がかりには繋がりそうにない、と感じながらであるため、シャナイアからの連絡を待つあいだの気休めでしかなかった。やはり、宮殿内で嗅ぎ回るのが最も効率が良く、確率が高い。
「無理をしていなければいいが・・・心配だな。」
エミリオがつぶやいた。
ギルはますます眉をひそめた。
「まさか、いきなり捕まったなんてこと・・・。」
「乗り込もう!」
勢いよく席を立ったリューイの腕を、隣にいるレッドが冷静につかんだ。
「いや。あいつのことだから、何の情報も得られないうえ、すっかり馴染んで、ただ戻らないだけという可能性も大いにある。」
リューイが腰を下ろすと、エミリオもこう付け加えた。
「それに、今は昼間よりも厳重に警備が敷かれているはずだから。シャナイアが無事ならその目をかいくぐって行くより、私たちも家来に紛れて潜入する方が接触しやすいだろう。」
ギルもうなずいて、続けた。
「今、無計画に突っ込むのは、捕まりに行くようなものだ。ここで捕まったら、あくまで犯人は盗賊って筋が通らなくなるぞ。俺たちがこれに関係するスパイだって分かれば、気付かれたと思うだろうからな。だが、王子と王女にさえバレなければ、何とでも誤魔化しや作戦変更はできるから、俺たちの口を封じて、白を切り通そうとするだろう。」
「口を封じる? やられるかよ。」
リューイは、いつにもまして恐れ知らずな顔をしている。
ギルは話を続けた。
「とにかく、一番上手く収めるには、何にしろ相手よりも先に救い出すしかない。あとのことは、それからだ。だが、向こうがいつ動き出すかも分からないだけに、全く余裕がない。少々強引に攻めないとダメかもな。」
「では明日の朝、シャナイアの安否確認と、さらにもう一人 潜入ってことでどうかな。」
エミリオが言った。
「俺しかいないだろ。リューイに家来の振舞いができるとはとうてい思えないし、エミリオやギルは目立ちすぎる。」
レッドにそう言われた二人は、顔を見合った。
容姿が・・・が省略されていることを分かっているギルは、エミリオが不可解そうな顔をしているのを見て、呆れたため息をついた。




