事件の裏
ステラティス王国に戻ったレッドは、早速あったことを仲間たちに話した。そして、身代金の受け渡しについては、ミハイルに聞いたところ〝次の連絡を待て〟ということだった。
「確かににおうな。」
ギルは腕を組んだ。
「怪しいわね。」と、シャナイア。
「だいたい、盗賊とかその手の悪党なんて、普通そんなに待たないよ。」
カイルが言った。
「向こうも、いろいろと時間が必要なんだろう。三つの国が絡んでるから、その移動や連絡を取り合う時間もいるだろうし、すぐに居所が分かったりなんかしても疑わしいからな。いかにも苦労して、命賭けましたってふりをするんだろうよ。」
レッドも呆れ顔でそう続けた。
「もし私たちの憶測通りなら、数々の疑問も納得できるが・・・。」
信じられないというように、エミリオも眉をひそめている。
「ああ。二人共かっさらうつもりで、ずっと機会を窺ってたんだな。王女が一人でステラティス王国を訪れるのを知るなんて、顔見知りなら容易いものだったんだろう」
「二人で出掛けることがあれば、それを襲うつもりで、門の近くで張り込んでいた。だが、護衛をも襲撃する覚悟で・・・だろうか。」と、ギルのあとにエミリオ。
「その役には、一時的に傭兵を使ったかもな。そういうバカな話に乗るはみ出し者も、中にはいるからな。」
もしそうなら傭兵の恥だ、と言わんばかりにレッドが言った。卑怯を嫌い、正々堂々を重んじると信じられているその品格まで下がる。
「奴らにとっちゃあ、あんなふうに二人が登場するなんて、予想外の展開だったんだろう。カイルとビアンカ王女が無断外出したことは、知らなかったようだからな。」と、ギル。
「俺たちといた時、そんな気配なかったからなあ。」と、リューイ。
「そういえば、カイルあなた、どこからどうやって抜け出したの?」
「庭園の奥の小さな門が開いてた。すぐ外と繋がってたよ。」
「ライカが開けっ放しにしたのを、そのままにしてたんだな・・・無用心な。」
ギルが言った。
「リューイやカイルが関わって、おかしなことになっていったせいで、ライカの逃走経路のことなんてすっかり忘れてたんだろうな。」
レッドもそう付け加えた。
「ねえ、それで、これからどうするの? 助けに行くんでしょ? 王子と王女は、ビザルワーレのお城にでも監禁されてるのかしら。」
「バカ。ライカたちには、本当にその手の悪党にさらわれたって意識を持たせないと、すぐにバレちまうだろうが。だからたぶん、本当にそれらしく、いろいろと凝ったことしてるんじゃないか。傭兵を誘拐犯に変装させたり、人気のない場所にある古小屋に閉じ込めたり。」
レッドが答えた。
「確かめてみるかい。」と、エミリオ。
「もしそうなら、ビザルワーレの王宮に忍び込んで、情報収集をしないと探しようがないな。王宮とは関係のない所で動いているにせよ、それについての秘密会議はそこで行われるだろう。外に漏れるとマズイ話だろうからな。その会議の部屋なら、家来に紛れて探れば見当がつくだろう。怪しい人物の出入りも期待できる。どちらにせよ、今、手っ取り早くできることといえば、それくらいだ。」
「私、引き受けてもいいわよ。」
ギルの提案に、シャナイアが名乗り出た。
「悪いな・・・。実は、君が一番適任だと思った。」
「一番紛れやすくて行動しやすいといえば、召使いですものね。演技は得意よ。」
「無茶するな。」と、ギル。
「ヘマするな。」と、レッド。
シャナイアは眉間に縦皺を刻んでいる。
「・・・殺されたいの?」
それをかわすように、もう窓辺へ移動していたレッドは、きょろきょろと外を見下ろしていた。
「なあ、ミーアを知らないか。あいつ、まさか主宮殿の方へ勝手に行ってやしないだろうな。」
「この宿舎の裏庭で、友達と遊んでいるよ。」
エミリオが答えた。
「友達?」
「ああ同い年の。ほら、貝殻の女の子だよ。」




