突然の来訪者
最短で行くことができる大街道を通って、レッドとミハイルはルイズバーレン王国に到着した。二人は、召使いの案内で中庭を臨む廊下を渡り、赤いドーム屋根が架けられた建物の応接室に通された。壁の細かい彫刻 模様が目を引くその部屋には、大きな角テーブルが一つあった。だが、応接室に置くにしては不自然に大きく、向かい合って座ると、少し声をあげた方がいいくらいだ。
その部屋では重役だけによる小規模な会議が開かれることもあるからで、用途に合わせて椅子や卓上の飾りなどが変わる。ここへ通されたのは深刻な話になると分かっていたからだろう。そのため、ほかにも重臣が三人、同じテーブルの席に着いていた。
今回、レッドとミハイルは、使者としては上等な待遇を受けた。クッションがきいた椅子に、卓上には華麗にアレンジされた花が用意されてあり、軽い飲み物も振る舞われた。
レッドがステラティス王国の王に話した通りに説明をすると、ルイズバーレンの国王ルドルフもすぐに承知した。その前に、ミハイルに名乗った時のようにレッドが自己紹介をした時には、真面目で気難しい顔を崩さない三人の重臣も驚いて、少しざわめいたほどだった。
話に一旦きりがついたところで、家来が一人、この応接室へとやってきた。その部屋には無駄に召使いも入れず、彼らのほかには王の側近が一人 控えているだけである。
王が入室を許可すると、その家来はこう報告した。
「陛下、申し上げます。ビザルワーレ王国より、バルザール王がお見えになりましたが。」
ビザルワーレ王国は、ルイズバーレン王国にとって、ステラティス王国と同様に友好関係にある。
「なに。そのような予定は聞いてはおらぬが。」
「は、急のことでしたので・・・。国境近くの離宮まで足を運んだので、一言挨拶を・・・と、申されております。」
「・・・そうか。わざわざここまでお越しいただいたのでは、断るわけにもいかぬ。ただちに部屋を用意してくれ。待たせるあいだ失礼のないよう配慮を。」
「は、それが、ステラティス王国からの客人ということをお当てになられ、それで、もし構わなければご一緒させていただきたいと・・・。何でも、ステラティス王国にも関わる話があるとのことですが。」
王ルドルフは、ミハイルを見た。
ミハイルはレッドと顔を見合わせ、「私は構いませぬが。」と、返事をした。
そして、その家来が退出してからおよそ二十分後。
二人の従者を引き連れて現れた恰幅のいい男性は、その地位を誇示するように大きな宝石を一つ身につけていた。ビザルワーレ王国の王である。
「これはステラティス王国の客人方、邪魔して申し訳ない。余はビザルワーレ王国の王バルザールと申す。」
「バルザール王、右方がミハイル・グレン殿、そして左方がアイアスのレドリー・カーフェイ殿だ。」
そうルドルフに紹介されると、立ち上がっていたミハイルとレッドは、二人そろって腰を曲げての丁寧な挨拶で迎えた。
そのレッドに向けられたバルザールの目が、たいていの者がそうなるように一回り大きくなる。
「アイアスと申されたか。なんと、あの世に名高いロナバルス王国のアイアンギルスとな。確かに、見事に鍛え上げられた戦士の体をされておる。噂には聞いておったが・・・。そうか、では王も心強いですな。」
「と、申されますと。」
まさかと思いながらも、ルドルフはあえて問う。何となく予感はしていた。
ルドルフに促されて、急遽用意された豪華な肘掛け椅子の席に着くと、バルザールは詳しく話し始めた。
「実は先ほど、そばを通りかかったこちらの家来から、ビアンカ王女がまだ戻られていないことと、その訳を聞きましてな。何でも、ステラティス王国のライカ王子と共に何者かにさらわれ、行方不明だというではありませんか。」
ミハイルは驚いて、王ルドルフを見た。
ルドルフも驚きを露にして、側近に何やら囁いている。




