軟禁
宮殿の敷地内にある別の建物の独房に閉じ込められていたカイルも、レッドのおかげで宿舎部屋での軟禁に変わった。仲間たちと一緒にいられる許可もおりた。ただし、まず武器を取り上げられ、そして、ミーア以外の全員に監視の目が付くこととなったのである。それはアイアスだと明かしたレッドも例外ではなかった。
「あいつら、便所にまで付いてきやがるぞ。」
リューイがそこから戻るや否や、ドカッとベッドに腰掛けて言った。
部屋の前で数名、見張りの兵士が交代で立っているのである。
「当たり前だ。けど、外までだろ。」と、レッド。
「真後ろ。」と、リューイはふてくされた。
「あの場で即、噛みつくからだ。お前は特別だ。」
ギルが言った。
「こうなると、俺たちもすっかり共犯だな。」
レッドがぼやいた。
「たいして悪いことなんてしてねえじゃねえか。」
リューイは不満たらたらである。
「王女を勝手に連れ出したり、連れ回したら、立派な犯罪だ・・・あ。」
ギルとレッドの目が合った。公爵令嬢を勝手に連れ回している彼は、その通り立派な犯罪者だ。
「あんなに楽しそうだったのにいー・・・。」
リューイとカイルがそう声をそろえる。
「気持ちだけじゃあ片付けられないことが、いろいろあるんだよ。だいいち、その楽しそうにしてた本人が二人ともいないんだから、話にならないだろ。」
レッドのそれを納得がいかないというように、ベッドに背中を倒したリューイは、先にそこで退屈そうに寝転がっていたミーアと戯れだした。今はすることもできることもないので、とにかく暇なのである。
そうして、監視付きのその一室で彼らが休んでいると、やがて足音とノックの音がして、ギルが「どうぞ。」と応えた。
ドアを開けて入ってきたのは、ライカの側近であり侍従のミハイルだった。
「私は、今からルイズバーレン王国へ向かいます。カーフェイ殿、同行していただきたいのですが。」
ルイズバーレン王国とは、ビアンカ王女の国。
「ああ。お安い御用です。」
「それで先日、この件で急使を送ったので、先ほどの説明をそちらでもお願いします。」
「分かりました。あの、ミハイル殿・・・。」
「はい、何でしょう。」
レッドには、彼がその人だと分かってから、尋ねるのにずっとタイミングをみていたことがあった。
「ところで、若い母親と幼い少女の親子が、あなたを訪ねてきませんでしたか。」
「なぜそれを。」
「ライカ王子が、その親子にそう助言を。」
「そうでしたか。確かにそのようなことは言われましたが、なるほど、あなた方とおられた時の出来事だったのですね。ライカ王子が・・・そうですか。」
レッドはその時、ミハイルがそっと微笑んだことに気づいたが、やはり彼の身を案じて止まないのだろう、あとのため息をついたその表情は、苦渋に満ちていた。
「それで、その親子は。」
今度は、エミリオが静かな声でたずねた。
「栄養失調がひどいようでしたので、今はこの宿舎の一室で休まれています。体調と体力が回復したら、住み込みで下働きの仕事をしてもらおうと思っています。」
室内に安堵のため息と笑顔が広がった。
「あとで様子をみに行かせてもらってもいいですか。」
カイルが言った。もちろん、医師としてという意味で。そのことには、ミハイルもパッと気付くことができた。
「ええ、監視を付けさせていただきますが。そういえば、カイル殿はあの時、医療器具を持っていましたね。」
「そういうことです。」
やがて、身支度を整えたレッドと、それを待っていたミハイルは部屋を出て行った。
それを見届けてから、ギルは言った。
「それにしても・・・やっぱり気になるな。」と。
「王子たちがさらわれたタイミングや、場所のことかい。」
言下にエミリオが反応した。
「ああ。いきなり思いついてできる誘拐のされ方じゃあなかったろう。狙ってやったとしか考えられない。」
「私も、同じことを考えていた。」
「ねえ、ところで身代金の受け渡しはいつなの?」
部屋の出窓から庭園を眺めていたシャナイアが、振り向いてきいた。
「まだ聞かされてない。」
ギルが答えた。
「なあ思ってたんだけど・・・。」と、リューイはベッドから体を起こして、ギルの方を向いた。
「何か気付いたか。」
「ミノシロキンって何?」