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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第10章  恋敵誘拐事件 〈Ⅶ〉  
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対面、カイルとライカ


 繁華街から王宮へ行ける近道をそのまま抜けていくと、路地も明るく広くなっていく。そして王宮からいちばん近い商店街の表通りに出ることができる。そこまで来れば、裏道とはいえ、名店と謳われるかくや、食事処しょくじどころの出入り口が向かい合っているおかげで、そこそこ人通りもある。


 すると今度は、靴磨くつみがきをしている兄弟を見かけた。何か大事な会にでも出席するのだろう、かしこまった服装の男性を接客している。兄らしい仕事中の少年は、客を退屈させないよう上手く会話を楽しみながらも、熟練した手を休めず動かし続けている。その表情は自信に満ちていてたくましい。それでも、ライカよりもずいぶん若い。


 年若い兄弟がそんなふうに商売をしているこの光景には、ライカは何を感じたのか、これまでとは違う、その胸中はうかがい知れない表情をしていた。また何かさとされたような、感動したような、だが戸惑い、驚いている、そんな顔だった。


 それを見つめながら一行がそこを通り過ぎようとしていると、助手だとも思えないほど幼い弟らしい方が、何か気付いてさかんに手を振り出したのである。その視線は一行に向けられている。


 すると、レッドが笑顔で軽く手をあげた。


 それに気づいた兄の方も、接客中のため一瞬だったが、手をあげてこたえ、にこりと笑った。


 そのため、レッドは仲間たちの注目を浴びた。


「ああ、さっきミーアの靴を磨いてもらって、少し話をしたんだ。その時は違う場所でやってたから、場所移動したんだな。」と、レッドは答えた。「あの子たちは大丈夫だよ。確かに貧しいようだが、強く生きられる顔をしているからな。家族もいるし、家の手伝いをしてるだけさ。あの子たちが明るいおかげで、ミーアもすぐに元気になった。」


「ミーアは、また社会勉強かい。」

 エミリオは微苦笑した。


 実際に見て学び感じる、理にかなった教育なのだが、ミーアにとっては修行も同然。


「ああ。いつもそうだが、すぐにショックを受けて暗くなるからな、あいつは。だから置いてきた。でも、元気に帰ってきただろ?」


「なあ、さっきのじいさんもそうだけど、商売するなら、もっとにぎやかなあっちの広い道の方がいいんじゃないか。」

 リューイが言った。


「大通りでは、たいてい無許可で店を出したりできないんだよ。裏道は黙認してもらってるんだろうな。それに、不憫ふびんに思っても人目を気にして足を止められない人もいる。だから、表通りに近いこういった抜け道の方が、彼らにはいい時もあるんだ。」


「なるほど。」

 様々な土地、特に戦地という過酷な場所を渡り歩いてきたレッドの言葉に、ギルもそううなずいていた。


 それからしばらくは、特に気になるものに出会うこともなく、ただ歩き続けた。


 だが商店街の大通りに出て王宮への帰路をたどっている時、レッドは不意に視線がとらえたものに一瞬目を疑い、足を止めた。そのため、つかの間つい呆然ぼうぜんとしたが、ハッと我に返るとそこへ指を突きつけ、仲間たちにあわてて知らせたのである。ほかの者は、レッドが急に立ち止ったことなど、あまり気にはならなかった。


 それを聞くまでは。


「おい、何てこった。見ろよ、あれカイルだぜ。あいつまで脱走しやがったか。」


 ずっと前方。見るとそこに、ちょっといい出生ところのぼんぼん風な身なりの少年が、一人で道に突っ立っていた。確かにその姿と雰囲気はカイルによく似ている。


 一行は急いで駆け寄った。


「カイルッ、何やってんだよ、お前は。」 

 そうと確信するや否や、リューイはいきなりカイルの頭をはたいて言った。


 驚いて振り向いたカイルは、とたんに大口を開けた。この予定外の事態によって、偶然ライカ王子と対面することになったからだ。そう、二人は初対面。そのまましばらく、互いに見つめ合ったまま固まってしまった。話に聞いて知ってはいても、こう実際に会ってみると仰天ぎょうてんせずにはいられなかった。まるで鏡を見ているようだ。同じ顔の二人は、同時に指を突きつけ合った。


 そこへ、ミルクティー色の髪の美少女が、すぐ近くの露店から出てきて登場。カイルを待たせて、一人で商品を眺めていたビアンカ王女だ。


 ニコニコと楽しそうだった王女の顔が、たちどころに唖然あぜんとなる。王女は一瞬声も出ないほど驚いて、両手で口を覆った。


「ラ、ライカ様がお二人 ⁉」


「姫 ⁉」

 カイルと突きつけ合っている指を、ライカは思わずそのまま王女の方へ。


 あ・・・という顔になったギルとエミリオ。


 把握はあくした・・・カイルは脱走したわけではなく、お忍びデートに連れ出してあげたのだと。とはいえ、これはこれで由々《ゆゆ》しき事態。


 一方、レッドやリューイは思考停止・・・。


「あ、ビアンカよかったね、ほんとに夢が叶うよ。こっちがほんとのライカ様だよ。僕はカイルってゆうんだ。ごめんね、だまして。」


 案の定、カイルが引き攣った笑みを浮かべてそう白状した。


 こうなってはもう、どんな誤魔化ごまかしもきかないと誰にだって分かる。素直に謝るのがベスト。とっさにとったカイルの対応で正解だ。


「これじゃあ、カイルが身代わりになった意味がないな。」

 レッドがため息をついて言った。


「だが、ライカを連れ出した意味はあったんじゃないか。無駄に逃走させるのは勿体もったいない。あの王子様も、学べることは学んだろう。」と、ギルの方は苦笑にがわらいを浮かべている。


 そういうわけで正直に訳を話すしかなくなってしまったものの、ビアンカ王女の理解を得ることができると、彼らは改めて謝罪した。そして、二人を王宮まで送り届ける前に、今度こそ王女の夢を実現させてあげることに。


 そのひとときを、二人はまったく無駄にしなかった。実は護衛のつもりでいる者たちが見守っているそのあいだ、高貴な二人は身分を気にする様子もなく、めいいっぱい楽しんでいるように見えたからだ。実際には時間が惜しかったのだとしても。

 









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