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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第10章  恋敵誘拐事件 〈Ⅶ〉  
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初めてのショッピング


 カイルになりすましている―― あるいは誰でもいい全く別の人物でいる ―― ライカ王子を連れて、男たちだけで繁華街に来ていた。ギルも、もはや別人になりきってライカと接している。彼らには、ある考えがあった。


 その大通りの道沿いにはズラリと店舗や屋台が並んでいて、果物や香辛料や、酒などを売る多種多様な店でひしめきあっている。ライカはそれらに興味津々で、嬉しそうに瞳をきらめかせていた。


「ライカ、あんまりきょろきょろしながら歩くな。怪しすぎるから。」

 ギルは肩をすくう思いで声をかけた。


 彼らはライカの希望通り、そして人目もあるので、あえてライカと対等に接している。もっとも、中には最初から気になどしていない者もいるが。


 ある時、ライカが立ち止った。パンを売る露店のそばだ。


「ギル、余はあれが欲しい。取ってきてくれ。」


 ギルはゆるゆると首を振ると、こう言い聞かせた。

「ライカ、そんなことじゃあいけないんだよ。ほら、もっと周りを見てごらん。彼らと自分がどう違うか分かるだろう。皆と同じようにしてみろよ。外に出たいと思うなら、そこに合わせなきゃあダメだ。」


「分かった。では、いただいてくる。」


 ギルの言葉をあっさりと受け入れたライカは、真面目まじめにうなずいて、その店のテントに入って行った。そして、フルーツをあしらって綺麗に飾られた菓子パンにひかれて、すっと手を伸ばした。


「これをいただいていくぞ。」


 店主はびっくりして、あわてて身を乗り出した。

「おおっと、ちょいと待ってくれ。お客さん、冗談きついよ。お代を払ってくれなきゃ困る・・・って、ライカ王子⁉」


「ああ、あれがいるのか。すまないが今はない。あとで使いを ―― 」


 当然、その顔に気づくや、店の主人は仰天したようだった。目を丸くして口を大きく開け、息が止まったような顔をしているからだ。だがそれを見ても、ライカは気にもしないか、否定することを忘れている。


「彼は別人です。」すぐ後ろから付いてきていたエミリオが、主人に多めの小銭を見せてそう言った。「ここへ来てからよくそう言われるんだが、私の弟なんだ。いくらだい。これから取ってくれないか。」


 本来、嘘が上手くつけないはずのエミリオだが、この時は、ギルも驚くほどの見事な演技力をみせた。ただ、全く似ていないのでかなり無理はあるものの、幸い怪しまれるような様子はない。


「そうか、いやほんと驚いたよ。ああ、まいどあり。」


 それからというもの買い物意欲に火がついて、エミリオは、あちらこちらの露店に引っ張り込まれては、ライカにせがまれて何か買わされる始末。


「ずいぶんあれこれ欲しがるな。王子様だっけ?」

 あきれてレッドが言った。


「しかも食い物ばっかりだ。」と、リューイも首をひねった。


 しばらくは、そうして繁華街を散策していた一行。


 だがある時、レッドの密かな合図で、彼らはそのまま建物の間の細道へとさりげなく入っていった。そこは薄暗く、だが、雨風がしのげる場所はいくらでもある店の裏通りである。


「ああ何て楽しいのだろう。ずっとこうしていたい。毎日がこうである、そなたらがうらやましい。」


 急に場所が変わったことを気にもせずに、ライカは上機嫌じょうきげんでうかれている。


「やれやれ・・・。」と、ギルはつぶやいた。









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