ビアンカ王女
カイルの容姿は、王宮にいる事情を知る者たち ―― 王と王妃、側近、近衛兵、侍女の長 ―― をたいそう驚かせた。髪や目の色だけでなく、背丈や体格までもほぼ同等で、髪型を整えてそれなりの衣装を纏えば、まさにライカ王子そのものなのだから。違うといえば声色くらいだった。
国王陛下と王妃との面会と、そうして着替えをさせられたカイルは、先ほどの側近から適当な説明を受けたあとで、裏庭が望める一室でしばらく待たされることになった。
淡いオレンジ色の天井に描かれた花模様が見事な、多角形の部屋だった。壁は水色で、それが天井の色とよく調和している。家具は猫脚の白いテーブルと、三人掛けの布張りソファーが一脚。絵画や骨董品もさりげなく部屋を飾る程度だが、卓上に置かれている花瓶は特別高価そうだったので、カイルは近付かないようにしていた。それらが、大きな連窓からたっぷりと降り注がれる陽射しを浴びて輝いていた。
「・・・ったく、みんなひどいや、他人事だと思ってえ。」
不承不承連れて来られたカイルは、窓から見える庭のずっと奥まで目を凝らして観察することで、たいくつ凌ぎをしていた。
すると、ふと何かを見つけた・・・と思い、カイルは目を凝らした。草木が生い茂ったところ。それはほとんど隠れていて分かり辛いが、勘で裏門かな・・・と思ったその時、ノックの音がして、ようやく召使いが呼びに現れた。
「ライカ様、そろそろ中庭の方へおいでくださいませ。ルイズバーレン王国の王女様がお見えになりましたので。」
「はーい、今行きまーす・・・どうなったって知らないからね。」
その召使いに案内されて、カイルはやがて、色とりどりの植物で造園された美しい中庭へと入っていった。
すでに、国王と王妃、それに、見目麗しいルイズバーレン王国のビアンカ王女が、瀟洒な円卓の席に着いている。そばには王女の侍女が数名 控えていた。
王と王妃からは、心なしか、ぎこちなさが感じられる。内心ひやひやしているに違いないと、カイルは思った。
「ライカ、ビアンカ王女とは久しくお会いできずにいたが、王女もいっそうお美しくなられたぞ。」
王がカイルにそう言うと、ビアンカ王女は席を立ち、ほほ笑んで優雅に会釈をした。腰まである滑らかなミルクティー色の横髪を、宝石が散りばめられた髪飾りですっきりと結い合わしてある。少し垂れ目の、甘えた感じが可愛らしい美少女だ。




