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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第10章  恋敵誘拐事件 〈Ⅶ〉  
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登場、ライカ王子


「ところでギル、彼らは君を見るなり目を丸くしていたようだが・・・違うかい。」

 部屋に戻るなり、エミリオがきいた。


「ああ実はな・・・ようく知っているんだ、そのカイルにそっくりな王子を。だから、カイルと出会った時は、我が目を疑ったものだった。ちなみに、あの男も知っている。ライカの最側近だが、世話役でもある男だ。」


「それで、この国に入る前に、カイルにあんな助言を?」


「そういうこと。父上は、トルクメイ公国同様に、ここステラティス王国にも目をかけている。俺も何度かこの国をおとずれ、その度にそのライカ王子と会っているんだが・・・妙に好意を寄せてくれてな。遠慮のないガキ、いや、王子で、俺に女性の扱い方なんぞを堂々ときいてきやがった。余は女子おなごの心が分かりませぬ。ギルベルト皇子は、例えば夜を共にする時、何とお声をかけてやるのですか・・・とな。」


 ギルはそう言いながら、やれやれと自分もコップに水を注いで、再びテーブルの席に座った。


 エミリオも軽い苦笑で応えて、向かいの椅子に腰を下ろした。


「俺は穏やかに笑って返したが、正直参ったよ。苦手でな。だから悪いが、捜索そうさくは俺抜きでやってくれないか。繁華街のどこかにいるはずだから、レッドとリューイに手伝わせれば、すぐに見つかるだろ。」


「それは構わないが。それにしても彼らはひどく驚いただろうね。一度に二人もよく似た人を見つけたのだから。」


「だろうな。俺も驚いたが。」

 ギルはそう言って、水を飲もうとコップに口をつけた。


 まさに抜群のタイミングで、それは起こった。ミーアの付き合いで、レッドと出掛けたはずのリューイが戻ってきたのである。


 カイルにそっくりな少年を連れて。


「カイル、どこにいる。」


 ギルの足元で、パリンッという音がした。何だかお約束の展開となり、おかげでむせ返ったギルが手を滑らせて、ガラス製のコップを落としたのだ。


「やだ、大丈夫⁉」


 シャナイアがあわてて雑巾ぞうきんを取りに行く一方で、割れたコップには気がいかないほど驚いたエミリオは、ギルの顔をうかがう。


「ギ、ギル・・・。」


「俺は何も見なかった。ほら、早くとっ捕まえて、王宮までお供してやってくれ、エミリオ。」


 だがライカは、すぐにそんなギルを見つけていた。

「ギルベルト皇子 ⁉」


「そら来た・・・。」

 ギルは横を向きながら、あわてたように腰を落とした。


「もしや、ギルベルト・ロアフォード・ルヴェス・アルバドル皇太子殿下では ⁉」


 さりげなく顔をらしながら、シャナイアと一緒に割れたコップの破片はへんを拾い集めているギルのそばに寄ってきて、ライカは遠慮なく人の顔をのぞき込んでくる。


「ギルベ・・・アルバ・・・?」

 リューイは首をかしげた。


 アルバドル帝国の皇子であるギルは、地位や身分階級を表す、称号だらけのその長い名を本来持っている。同じように、エルファラム帝国の皇子であったエミリオは、エミリオ・ルークウル・ユリウス・エルファラムという正式名だったが、リューイにとっては、ただのやたらに長い呪文のようなものにしか聞こえない。


 とにかく、エミリオはまず落ち着いて声をかけた。


「恐れながら、ここステラティス王国の王太子殿下、ライカ様とお見受けいたします。先ほど家来の者たちがここへ来て、捜しておりました。それに、その者は私どもの友人でございます。」


「ああそう、そう、そいつは俺たちの仲間だぜ。皇子なんかじゃないぞ。」


 あまりに白々しいリューイに、ギルは思わずひたいを押さえた。


「そうか・・・だがしかし、本当によく似ている。その眉目秀麗びもくしゅうれいな顔立ちだけでなく、稀有けうな瞳の色まで・・・二人といまいと思ったのだが。」


 ありがとよ・・・と、ギルは胸中でひとりごちた。


「それにしても、そなたも実に美しい容貌ようぼうだ。男にしてこれほどの美貌・・・ただの平民とは思えぬ。」


 素直な声でそう言ったライカは、今度はエミリオの顔を、最高傑作の芸術品でも眺めるように、まじまじと観賞している。マナーも遠慮も知らないわけではないだろうが、とにかく自由過ぎるそんな若い王子に、エミリオはただ微笑を返した。


「ライカ様、どうか早々に王宮へお戻りくださいませ。みな心配しておりました。私がお供いたしましょう。」


「余は帰らぬ。もっと外を見ていたいのだ。リューイ、連れに会わせてくれると申したではないか。どこにいるのだ。」


「ああ、会って腰抜かすなよ。ギル、カイルのやつはどこ行った。」


「その御方おかたの身代わりになってるよ。」


「どういうこった。」


「彼らは、カイルを見つけてやって来たんだよ。ついさっきだ。それで、王子が見つかるまで、しばらくカイルを貸して欲しいと言ってきた。」


「なるほど、そのカイルという者が余にそっくりなわけだな。これは好都合こうつごうだ。ならば、しばらく身代わりになってもらおう。」


 そこへ、「ただいまあー。」という、ミーアの底抜けに明るい声が。今度は、レッドがミーアを連れて戻ったのである。


「ただいま。なんだリューイ、やっぱり先に帰ってたのか。ズルいぞ、すぐいなくなりやがって。」


「ああ悪い、ちょっと・・・。」


 リューイが言うよりも早く、続けてレッドはカイル ―― 実のところはライカ ―― に気付いた。少し様子が変わったとは思ったが、それだけだった。


「あれ、カイル、今日は占いとか診察には行かなかったのか。それとも、もう終わりか。」


 やはり一目ではさすがのレッドも分からないらしい。それほど似ているのである。


 ライカは含み笑いを漏らした。 


 そんなライカをすっかりカイルだと思い込んでいるレッドは、顔をしかめた。


「なに不気味に笑ってやがる。」


「レッド、そいつはカイルじゃねえぞ。」

 リューイが教えてやった。


 レッドは、ライカと面と向かい合って立った。そして、全身をパッと眺めた。目や髪の色、背丈や体格など、どこからどう見てもカイルそのもの。言うとすれば、何となく髪型が違い、一緒に朝食をとった時と服装が変わっていたが、たいして気にはならなかった。


「・・・何言ってんだお前。また二人でふざけてるのか? 分かった、じゃあ誰だってんだよ。」


「王子様だよ。」


「何の遊びだ。カイル、お前もいい加減に ―― 」


「余は遊んでなどおらぬぞ。余はカイルだ。」


「どうして、王子様がここにいるんだっ!」








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