替え玉作戦
実は、その時・・・彼らが街でカイルを見つけた時。彼らはすぐに、自分たちが見間違えたことには気づいていた。カイルがあわてて片付けた占い道具や医療器具を見て。
ところが同時に、リーダーの男の頭に、ある考えが閃いてしまったのである。
つまり、替え玉作戦が。
さすがにそれを聞かされた部下たちは、一様に不安そうな顔を見合った。あまりに大胆で、実行するには勇気のいることだ。
しかし、リーダーが全ての責任を取るということで納得させていた。
「カイル、どうする? ただ、にこにこ愛想笑いをして、可愛らしいお姫様の機嫌を損ねないよう紳士的に振る舞いながら、たまに気を利かせるくらいでいいんだと。それに、御礼はたっぷりとしてくださるそうだ。」
「なにげに難しい注文してるって、知ってたっ?」ギルやエミリオじゃないんだからねっ、とカイルは思う。「バレるに決まってるでしょっ!」
「まあ、最悪その時は事情を話して、暇つぶしの相手でもしてやればいいじゃないか。同じ顔なんだから、そのお姫様も悪い気はしないだろう。どうだ? 俺たちも王子の捜索に協力して、すぐに連れて行くから。」
御礼と聞くと、シャナイアの目の色も変わった。
「そうよ、いい話じゃない。御礼がもらえたら、楽してすぐに出発できるわよ。」
「楽とは?!」
完全に他人事っ。
「いや、ほら、人助けはお前得意だろ。とにかく王子が逃走したなんてことは、限界まで知られたくはないそうだ。見つかったら、さりげなく交代して一件落着だ。ちょっと身代わりになるだけで、たっぷりと報酬がもらえるかもしれないぞ。」
「はい、そういうことです。何とぞ願い入れてはくださりませぬか。」
「どうか、この通りでございます。」
思いつめた表情でリーダーの男は頭を下げ、そばにいた部下たちもそれに倣った。
もし、王太子が勝手に城を抜け出して遊びに行った・・・などということが関係国に知られれば、ライカ王子の人格や品格そのものを下げることにもなりかねないし、従者や警備のあり方を疑われて悪印象を持たれてしまう。
手っ取り早く無かったことにしてしまいたい・・・と、リーダーの男は考えたのである。ある意味、魔が差したとも言える。
「これほど懸命に頼まれているのだから、どうかな、カイル。」
「エミリオまでっ。」
そのあとカイルは、べそをかいたようにムッツリ黙り込んでしまった・・・。
それ以上は、誰も何も言わなかった。
沈黙が重い・・・と、断れない雰囲気に呑まれたカイル。そしてとうとう、派手にため息をついてみせると、しぶしぶ口を開いた。
「・・・もう・・・どうなっても知らないよ。」
彼ら一行の顔がパッと晴れやかになる。
「おお、それでは良いのですね!」
リーダーの男などは、思わず手を打ち合わせて喜んだ。
「う、うん。分かりましたぁ・・・。」
カイルはもう、そう返事をするしかなかった。嫌々《いやいや》だ。
「ああ、少年よ、ありがとうございます。」
「僕はカイルっていいます。」
「ではカイル殿、あなた様は、しばらくライカ王子でお願いいたしますよ。」
「上手くいくと思わないけどなあ・・・。」
「では、さっそく参りましょう。」
男は妙にへりくだると、カイルの背中に手を回した。内心では、彼の気が変わらないうちにと。
「カイル、君なら大丈夫だよ。」
エミリオが最も単純な気休めを言った。
「しっかりやれよ。王子様らしくな。」と、ギル。
「いい経験じゃない。楽しみにしてるわよ、御礼。」
「はいはい、行ってきます。」
やけくそになったカイルは、誰よりも先に歩き出した。
仲間たちは笑顔で手を振りながら見送った。




