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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第10章  恋敵誘拐事件 〈Ⅶ〉  
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助けた少年の正体


 行き止まりにきたライカ王子は、追いかけてきた男たちを振り返った。すでに取り囲まれ、完全に逃げ道をふさがれている。この中では最も古株である従者が弱り果てた表情を浮かべていた。


 その彼の心境としては、強引にでも今すぐ腕を引っ張って連れ戻したいところ。だが、手を出すわけにはいかない。


 なにしろ、相手は国王のご子息、それも王太子なのである。


 男は重いため息をつくと、うやうやしく一歩近づいた。


「殿下、間もなくルイズバーレン王国からビアンカ王女がはるばるお越しになります。それも、ライカ王子殿下にお会いできるのを心待ちに、お一人で。殿下もお出迎えの準備をなされませんと。さあ ―― 。」


 ところが突然、男は、背後から誰かに肩をつかまれた。やったのはひかえている同胞の誰でもない。


「俺の連れに何しやがる。」


 そして次の瞬間、男はその誰かにぐいと後ろへ引き戻されて、尻餅を付いていた。


 地面に両手をついて唖然としたまま、よくよく見てみると、どこからともなくそうして現れたのは、全く見覚えのない金髪 碧眼へきがんの美青年だ。


 男たちは頭を寄せ合い、困惑しながらささやき合った。


「連れと言ったか?」

「王子ではないのか?」 

「いや、そんなはずは・・・。」

「では、この男は何だ。」


 不思議そうな顔で、金髪の青年とライカ王子・・・に見える少年を交互に見ていたその男たちは、何か戸惑うような、うろたえるような素振りを見せたものの、やがてその場から立ち去った。人違いならいろいろと知られては厄介だ。


「何だあいつら。」


 それをしばらく目で追っていた金髪の青年 ―― リューイは、首をかしげて少年に向き直る。


「どうして追いかけられてたんだ。」

「・・・・・・。」

「何かマズいことでもやったのか。」

「・・・・・・。」

「何かされたか。」

「・・・・・・。」

「・・・どうして、黙ってるんだっ。」


「余を・・・連れと申したな。」


 リューイは仰天ぎょうてんして、思わず二、三歩 あとずさった。


「誰だ・・・お前。」






 結局のところ、その少年はまぎれもなく、リューイがカイルだと思い込んでいただけのライカ王子である。五分も一緒にいれば黙っていても違うと分かっただろうが、最初は本当に見抜けなかった。


 そんなライカと共にリューイは少し歩いて、広くなった場所へ出た。そして大聖堂のおもて階段の前に来ると、二人はそこに並んで腰を下ろした。目の前を、多くの人が忙しなく通り過ぎる。そんな朝の喧噪けんそうを見つめながら、二人は話をした。


「ふうん・・・王宮って、そんなにつまらない所か。」


「毎日、同じことの繰り返しだ。それでは外は見えぬ。俗世が知りたくなったのだ。」


「・・・俺も似たようなものかもな。外の世界がこんなにも広いって、俺も、実際出てみて分かったよ。」


「そなたは・・・。」


 ライカは隣にいる、外見は貴公子のような彼をまじまじと見つめた。そして首をひねった。だが、今ひとつ粗野だな・・・と。


「ああいや、出たといっても、ただし森をだ。アースリーヴェっていう。」


「アースリーヴェ?」ライカはさらに耳を疑う。「そこは秘境ではないのか。それは、オルフェ海沿岸の南の密林の名であるぞ。」


「らしいな。密林と森ってどう違うんだ? 俺は森ってじいさんに教えられたよ。そのじいさんと友達と暮らしてたから――。」


「友達? 人が大勢住めるような所なのか?」


 ライカは興味津々の様子で、身を乗り出してきた。


「いや、人はじいさんと俺だけだった。友達はみんな動物だ。ヒョウとかトラとか。だからあんまり頭よくなくてさ。悪いんだけど、あんたが俺なんかよりずっとえらい人だって分かっていても、言葉が分からなくてさ。その・・・あんたに対する特別なしゃべり方が・・・。」


「素晴らしい!」ライカは興奮して立ち上がった。「いや、実に新鮮だ。構わぬ、そなたが好きなように話すといい。」


「はあ・・・。」


「ところで、連れとはどういうことだ。」


「ああ・・・まあ、来いよ。会わせてやるよ、連れに。まだ帰る気ないんだろ。」


 リューイもそう言って立ち上がり、ライカを手招てまねいて歩きだした。








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