瓜二つ
ステラティス王国の王宮から最も近い繁華街は、大きく交差する道にあった。そこからはまたいくつかの細い道が延びていて、そこには、この商店街の表と裏の顔がある。
その商店街の大通りへとつながる人気のない路地裏を、一人の少年が逃げ惑っている。
体つきは細過ぎず逞し過ぎず歳相応で、身長は一七〇センチほど。漆黒の髪に、深い緑色の瞳。容貌は優しい顔立ちの、俗に言う甘いマスクの少年。
この顔と体格にぴったり当てはまる者が、大陸でもう一人いる。
カイルだ。
少年はまさに、カイルと瓜二つだった。
「見つけましたぞ!」
「お待ちくだされ!」
声をおさえてそう口にしながら、その少年のあとを追いかけているのは〝王家の制服〟を着た複数の男たちだ。
実はこの少し前のこと。少年は、見ず知らずの若者と着衣を交換していた。彼はその時、それまで身に付けていた純金の首飾りを外して、ポケットに入れた。ほかにも目立っていた高級な金の腕輪は服のそでで隠れている。
おかげで、少年のあとを追いかけているその男たちは見つけるのに苦労したが、今、やっとの思いでその少年 ――。
いや・・・。
ここ、ステラティス王国の王太子、その名も〝ライカ王子〟を捜し出すことができたのだ。
「ライカ様!」
「早々にお戻りになりませんと・・・本日は・・・!」
「間もなく来城されますゆえ・・・!」
夕方までには帰るから!
庶民の身なりでいるライカ王子はそう伝えたかったが、自分を必死で呼ぶその声を無視して、屋根の低い煉瓦造りの店舗ばかりが目立つ路地裏を、ひたすら走り続けてきた。そして、店で不要になった空樽や木箱が重なりあった、ごちゃごちゃした方へと入っていった。
ところが。
行き着いた先は、高い石の壁がたちはだかる袋小路である。
表通りには明るい店舗が立ち並び、その後ろには居酒屋や隠れ家的な小さな食堂が軒を連ねている。石畳の街路に石造りの家。軒先やバルコニーを飾るプランターの緑がほどよく調和している、こんな町並みの風景は、野生の植物ばかりで埋め尽くされた世界しか知らなかった彼に、未だ新鮮な気持ちを起こさせる。
目に焼き付けておこう・・・旅先で見た景色をたくさん。
繁華街の表通りを、レッドとミーアの後ろについて歩いていたリューイが、そう感慨に耽っていると・・・。
「見つけましたぞ!」
「お待ちくだされ!」
何やら騒がしい物音が近づいてくる。
だがそれは、育ち柄、自然と聴覚をも鍛えられていたから気づけたことで、気にしなければどうというものでもなかった。現に、すぐ目の前を歩いているレッドはというと、無反応である。
リューイは立ち止り、建物の間の狭い通路に目を向けた。この路地裏から、それは聞こえてくるからだ。
すると一瞬、そこを若い男性が横切って行った。
まさにあっという間だったが、リューイにはそれがカイルに見えた。続いて、あとを追いかけるような男たちの姿も。
何だ、今のは・・・と瞬きしたリューイは、あわててその路地へ入って行った。




