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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第9章  同盟国ダルアバスの王子 〈 Ⅵ〉【R15】
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説得


 ディオマルク王子が静かにそばまで歩いてきた。


 敵の指揮官はもはや覚悟を決め、いさぎよい顔で黙っている。

 

 そんな男の前に立つと、ディオマルクはおだやかな表情と声で、言った。


「余は、ダルアバス王国の王子でディオマルクと申す。このような言葉は誤解を招くかもしれぬが、我らの後ろ盾にはすでにアルバドル帝国がいる。今さら、ほかと手を結ぶ意味はない。戦いは防衛戦に限られ、我らは決して野心を抱くことはない。大陸の東は、ヘルクトロイの戦いを最後に落ち着いた。ここ中部ラタトリア地方の平和は曖昧あいまいで危ぶまれてはいるが、我らは東にならい、安心して穏やかな日々を送れることを強く望んでいるのだ。そなたも西の地獄をこの地で見たくなければ、王に伝えてはくれぬか。これは政略結婚ではない。我が妹とセルニコワの王子は、望んで夫婦めおととなるのだと。そして我々も、近隣国との平和を保ち続ける所存であると。」


 ディオマルクは、確かに意思を伝えながらも、念のため、さりげなく脅威きょういを与えていた。各国に平和の意識が根付くまでは、国を守るために仕方のないことだった。


 表向きは静かなものだが、北のモナヴィーク、中部ラタトリア、南のインディグラーダ地方にある、特に激戦の地エドリースに近い国々は、その裏で密かに近隣国の動きを慎重に見ている国も多く、そのため何かあれば、このように過敏かびんに反応する国も出てくる・・・これが現実。


 ディオマルクは、ふところから封蝋ふうろうでとめてある白い手紙を引き抜いた。封蝋には、ダルアバス王室の家紋をはっきりと押印おういんしてある。


「これは、王レイノルダスが、貴国の君主にてた書状だ。可能なら渡して欲しいとことづかっていた。」


 男は複雑な表情で口を真一文字まいちもんじに結んでいたが、ゆっくりと立ち上がると無言でそれを受け取り、確かに軍服の内側に収めた。そして背をひるがえし、不意に終わった戦いに向き直り、レッドやリューイのそばで突然動きを止めて事の成り行きを見守っている部下たちに命じた。


「退却する。」


 生き残ったラマイスタの兵士は、その命令をすぐにきいた。重傷の者を動ける者が支えながら、先に離れた中佐のあとに続いてすみやかに引いていったのである。とはいえ、もう帰国の途に就いたわけではなかった。任務を終えた今は倒れた同胞どうほうとむらってやることができる。よって、ひとまずその場から姿を消しただけに過ぎない。


 こうして暗殺兵団が去っていき、間もなく静寂が訪れると、一行も道を外れて、誰も横たわっていない大岩の後ろへ移動した。


 そこまでカイルに抱えられていたミーアが、べそをかきながら駆け寄った相手は、ギルではなくやはりシャナイア。


「ごめんね、心配かけちゃって。」

 腰を落として受け止めたシャナイアは、苦笑混じりにほほ笑みながら、ミーアの髪をなでてあげた。


 戦いを終えておだやな表情に切り替わったエミリオは、ほっとしながらギルと向かい合う。


「無事で、本当によかった。」


「心配かけて悪かったな。ああエミリオ、あとで・・・お前だけにちょっと話したいことが・・・。」


 二人の会話をそばで聞いたディオマルクが、ギルの背後からそっと囁きかける。

「余の直感は当たったろう?ギルベルト。しかし余は口説くどく間も無かったではないか。」


 肩越しに振り向いたギルは、ただ照れくさそうな笑みを返した。


 そこへ、医療バッグをたずさえたカイルが進み出てきた。そして、ギルの腕の包帯を見て眉根を寄せる。


「ギル、そっちの腕ちょっとせて。早くちゃんとした治療をしないと、大変なことになっちゃうよ。」


「ああたのむ。カイル、お前が恋しかったよ。」


「ケガしたら、皆そう言うんだよね・・・。」


 セルニコワ王国から送られてきた護衛の二人は、ここで、ディオマルク王子とファライア王女の前に並んだ。そしてうやうやしくひざまづくと、深く頭を下げる仕草。


「ディオマルク王子、ファライア王女、改めて申し上げます。我々はイスディル王子に仕える近衛兵このえへいです。このようなことになり、何とおびを・・・まことに、まことに遅くなり申し訳ございません。」


 ファライアは兄を見上げたあと、気を荒立てるなど知らない少女のように微笑ほほえんでみせた。

「よいのよ、二人共。よく無事でいてくれました。わたくし達は、全てを承知ですから。」


「ファライア王女・・・。」と、近衛兵の男。そしてすぐにまたかしこまり、「申し上げます。イスディル王子が、国境のデル・ロドゴ遺跡いせきでお出迎えするとのことです。」


「まあ、お兄様。」


「それは聞いてなかったな。王子も早くお前に会いたいのだろう。さあ、参ろうか。国境はすぐそこだ。」


 そうして、ギルの左腕と、それにリューイのかすり傷の手当てが済むと、一行は颯爽さっそうと歩き出した。


 森を抜ければその先に、かつて交易の拠点きょてんとなった遺跡が見えてくる。砂岩さがん断崖だんがいに囲まれて建つそれは、そこがもう国境であることを教えてくれる目印だ。










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