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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第9章  同盟国ダルアバスの王子 〈 Ⅵ〉【R15】
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二人の戦士


 ギルは、痛みで思わず腰を浮かした。


 早朝のまだ薄暗い中、吊りランプのほのかな明かりのもとで、シャナイアはうみがこびりついているギルの左腕を、塗れタオルでそろりそろりと拭いてやっていた。出発前に包帯を取り替えてあげようと思ったのである。


「やだ・・・綺麗に洗いきれなかったのかしら。少しんじゃってる。この薬箱にあるものじゃあ、やっぱりダメなのね・・・。カイルに早く診せなきゃあ。」


「俺は昨日からというもの、度々カイルが恋しくてならなくなるんだ。気持ち悪いな。」


「ひどい人ね。夕べはあんなに私のこと大事にしてくれたのに。」


「二股かけるつもりはなかったんだが・・・。」


 ギルの冗談に笑い声を上げながら、シャナイアはテキパキと処置を済ませた。


「はい、いいわ。」

「どうも。」


 ギルは立ち上がって、干していた衣服がだいぶ乾いているのを確かめると、それに着替えた。それから剣の手入れをするため、使えそうなものを探しにかかる。


 シャナイアは、続けてキースのケガを診に行った。こちらは幸い化膿かのうもしておらず、もともとかすり傷程度の軽いケガだったため、もう包帯の必要もなさそうだった。


「キース、リューイに教えたりしないかしら。」


「どうかな。キースと話ができるみたいだからな、リューイは。それより、あいつら、俺たちのこと探してやしないだろうな。」


「レッドがいるもの、大丈夫よ。彼、任務についたら、まずそれを最優先に行動するから。」


 すぐにそう答えたシャナイアだったが、本当のところはよく分からなくもあった。こんな経験をしているからだ。


「前にも少し話したけれど、レッドを知ったのは、レトラビアで今と同じような任務についた時だったわ。そこで、私しくじっちゃって、足を痛めたの。※1」


「ああ、シオンの川で言っていた屈辱くつじょくの名残ってやつか?※2」


「そうよ。それで私、その時リーダーをしていたレッドに言ったの。足手まといになるくらいなら、死んだ方がましだから置いて行ってって。そしたらあの子、〝使いものにならなきゃ、そうする。〟って無表情でさらりと返してきたわ。激流の川でも、隊員だけでなく姫様をも渡らせるし。」


 その過去が鮮明に思い出されて、シャナイアは不可解そうに眉根を寄せ、ため息をついた。


「ただ・・・そのあと〝だがお前はまだ動けるし、必要だ。足手まといになると思っているなら、一晩で治せ。〟なんて言って、私をずっと背負って歩いたの。危険な川を渡る時にはほかの隊員の三倍横切って、全員を無事に対岸へ着かせてくれた。いつでも体を張って、可能な限り隊員を生かそうとしてくれた。容赦のない判断もできるはずなのに。」


「あいつらしいな。とにかく、そうして君を生かしてくれたわけだ。俺は、レッドに感謝するよ。」


 シャナイアは自分も干してある衣服を手に取り、ギルの背後の暗い陰に行って着替えを始めた。そうする間にも気になっているのは・・・空腹。


 シャナイアがいつの間にか貯蔵庫らしきものに手を突っ込んで、中にある物を一つ一つ取り出していることにギルが気付いたのは、シャナイアが何やら食べられる物を見つけて歓声を上げた時だ。


「ねえ見て、食べ物があったわ。ここってほんとに何でもそろってて、助かっちゃったわね。」


「ここの人たちが来たら怒り狂うだろうな・・・早いとこずらかろう。」


 ギルがそう言ったところで、ふと人の気配を感じた二人。あせって窓に視線を飛ばせば、そこの窓越しから中をのぞいている男性の姿が二つ見える。


「あら・・・見つかっちゃった。」

 シャナイアは肩をすくってみせる。


「仕方ないな。正直に訳を話して謝ろう。」


 ため息をついて腰を上げたギルの方は、精一杯申し訳ないという表情でその二人組のもとへ向かう。


「すみません、実は・・・。」

「すみません、ちょっと・・・。」


 窓を開けるや互いの声がそう重なり合い、ギルは驚いて口を閉じた。


 なぜなら、そこに立っている男の身なりや貫禄かんろくは、地元の管理人やただの労働者などではなく、いかにも腕のたつ屈強の戦士。どう見ても、そんな感じだからだ。


「あなたがたは・・・もしかして・・・。」

 たちまち気付いたギルは、シャナイアを振り返った。






 ※1 参照:外伝3『レトラビアの傭兵』」― 「19.もう・・・戦えない」

 ※2 参照:Ⅱ(第5章)『シオンの森の少女』 ― 「48.尾行」







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