レッドと孤児院の少年たち
出発を遅らせることになったレッドは、リューイとミーアの二人を連れて、イデュオンの森に来ていた。本当のところは、ミーアには完調するまでおとなしく休むよう言いつけたものの、すっかり回復した気分でいるので嫌がられ、どうしようもなかったために、少しだけ気分転換に出てきたのである。
そのレッドは、ミーアをリューイに任せて、一人思い出 深い場所へと向かっていた。
そこは以前レッドがこの町に滞在中に、孤児院の子供たちに剣術を教えてやっていた場所。だが、レッドはその少年たちに会う気はなかった。少年たちに、自分が一時的にでも、この町へ戻ったと知られてはならないからである。だからただ、もしそこにいるなら、そっと様子を窺いたかったのだ。あれから毎日欠かさず続けているだろう、稽古に励む姿を。
だが、レッドがそこへ行ってみると、残念ながらその姿はなかった。
レッドには、昼下がりのこの時間に少年たちがそこにいないとなると、もう一つ思い当たる場所があった。だが今は、そこまで行くことはできなかった。その場所とは、岩山の近くに建てられた狭い住処で、普段は子供たちの基地として開放してある冒険家の家だ。滅多に帰っては来ないその旅人の留守のあいだ、そこの管理を一応任されているのが、ミーアのほかにもう一人レッドを参らせることのできる女性、イヴだからである。
イヴは修道女としての務めを終えたあと余裕があれば、修道院に戻る前に、そこに寄るのを日課としていた。だから、そのことを知っているレッドがそこへ行くには、戦に赴く以上の勇気が必要なのである。
だが、今はまだ昼下がり。この時間に鉢合わせる可能性はゼロに近い。とはいえ、ただ子供たちの稽古に励むその姿と上達ぶりを知りたかっただけのレッドは、結局、子供たちがやってきたら気付きそうな場所に隠れて、少しだけ待ってみることにした。
それでレッドは、大きな岩陰の叢の中に横になった。周りには視界を遮るものが多くあり、子供たちが孤児院、もしくは基地の方からやってきても、隠れて寝転がっている姿を見られることはないだろう。
レッドは、色とりどりの花が咲き誇る間の柔らかい草の絨毯に寝そべって目を閉じた。
カーン、カーン!
カシッ、カーン!
レッドの耳に、何かを激しく打ち合う音が飛び込んできた。
パッと目を開けたレッドは、その音の方へと慎重になりながら進んでいった。
やがてレッドの面上に、嬉しさと安堵が混ざり合ったような笑みが広がる。子供たちが、自分の教えたことを完璧にこなして、威勢のよい雄叫びを上げながら元気よく木刀を打ち合っているさまを、レッドは大木の木陰から眺めた。
「俺たち、強くなったかな!」
「まだまだ、お兄ちゃんが帰ってきたらびっくりさせてやろうよ!」
「帰ってくるかな・・・。」
「大きくなったらロナバルス王国に行こうか。」
「ダメだよ、皆のことは誰が守るのさ。」
「そうじゃなくて、お兄ちゃんがいるかもしれないだろ。」
「お兄ちゃんは帰ってくるよ。だって、お姉ちゃんが待ってるもん。」
「そっか。」
その会話を聞いていたレッドは、思わず視線を落として背中を向けた。
彼はそっと離れて、静かに来た道を戻って行った。
「ひと雨降りそうだな。」
頭上まで伸びてきた灰色の群雲を見上げて、リューイは呟いた。彼は、眼下にいるレッドとミーアを見た。彼がそうして二人を見下ろしているのは、彼が大木の枝に腰掛けているからである。
それまでは、リューイはミーアに木登りを教えて遊んでいた。だが戻ってきたレッドに「頼むから止めてくれ。」と叱られて、ミーアを下ろしたあとお守りを交代し、ひと眠りしようとまた同じ木によじ登ったのである。
ミーアは、ニックが用意してくれたパンの切れ端を、小鳥の餌にしてはしゃいでいた。その少女の周りには、色鮮やかな青や黄色や緑の羽を付けた野鳥が、次々と舞い降りてきている。そしてそばには、両腕を組んで佇んだまま見守るレッド。いや、見守るというより、見張っている感じだ。そうでもしていないと、このお嬢ちゃんはいつどこへ消えてしまうか分からない。
涼しい風が吹いた。
何となく気だるくなり始めたリューイは、背中を倒して太い幹に凭れかかった。そして、眠気が刺したように感じて瞼を閉じたが、ややすると薄目を開けて、もう一度二人の姿を確認した。陰気な雲が広がり始めたものの、まだ帰る気配はなさそうだ。
リューイは、小鳥のさえずりに誘われるように眠った・・・。




