表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第9章  同盟国ダルアバスの王子 〈 Ⅵ〉【R15】
339/587

煉瓦小屋の一夜 ― 2



 意識が宙をただようような状態だった。


 だが最後は忘れず彼女の髪を撫で、ほほ笑みを浮かべてひたい接吻くちづけを。それから限界がきてひじをついたとたん、ギルは隣に崩れ落ちた。


 シャナイアは、今、仰向あおむけに寝転んだギルの上に体をあずけた。


 シャナイアがこれまで心を許すことのできた相手は、みな自分と同じく傭兵できたえ抜かれた男ばかりだった。ギルは仮にもアルバドル帝国、君主の息子という高貴な身分。それなのに ―― あるいは、だから ―― 刃広はびろの大剣を自在に振り回すことのできる強い力を持ち、そのうえ背筋はいきんの盛り上がりにまでたくましさだけでなく色気さえ感じる。


 それなのに、余裕がない・・・だなんて可愛いことを言うものだから、思わず積極的になっちゃった・・・。


 そんなギルの体にシャナイアはついうっとりとし、その誘い込むような表情がまたたまらず、ギルも見惚みとれて呆然となった。


「とても皇子様とは思えないわ。」

 シャナイアはギルの肩にほおをすり寄せてつぶやいた。


「何が?」と、彼女の背中に両腕を回してギルはきいた。


「だって・・・。」

「ああ・・・。」


 今、裸で抱き合っているという状況を考えれば、察しはついた。体つきのことだ。


「レッドやリューイには負けるよ。」

 ギルはゆがんだ笑みを浮かべ、素直な口ぶりで答えた。


「あの子たちはそういう生き方してきたから当然だけど・・・。」


「俺の場合は、幼い頃から父親にきたえられていたおかげだな。父はもともと兵士だったんでな。馬や弓の扱い方など、いろいろ教わったよ。戦い方も・・・。俺には、エミリオの体格の方が不思議だがな。あいつ、いつからきたえてたんだろう・・・。あの体は、正真正銘、何年もかけてつくり上げてきたものだ。俺たちにひけをとらないのが、その証拠だ。」


「そうよね。だって皇子様ってゆうのは、普通はずっと周りに守られて宮殿に・・・」


 言おうとして、シャナイアはハッと言葉を呑み込んだ。そして、小さな暖炉が懸命に炎を上げているだけの、この粗末な煉瓦れんが小屋の中を見回して、突然、痛切な気持ちに駆られた。


 確かに彼は手馴れていた・・・と、シャナイアは気付いた。たくみだし、丁寧に快楽へと連れていってくれる。彼はきっと、皇宮などの豪華な寝室で、何度もこういう行為をしてきたのだろう。


 そして相手は・・・。


 一方ギルも、シャナイアの言葉にハッとしていた。エミリオは、周りが守りきれないほどの危険に子供の頃からさらされていたのか・・・。だが、それに真っ先に気付いたのは、恐らく皇帝ではないだろう。護身として剣術を学んでいるのは当然だが、あの強さは普通じゃない。だとすると、大佐か将官クラスの誰かが、いち早くエミリオの行く末を予測して、あいつをきたえ上げてきたということか・・・。


 ギルはシャナイアを大切そうに腕に抱いておきながら、しばらくそう違うことを考えていたが、ふと、シャナイアが途中で黙り込んでしまったということに気付いた。


「シャナイア?」

「え・・・。」


 彼の声に驚いたというように、シャナイアは顔を上げた。そして、無理に作り笑った。


「何を言おうとしたんだい。」


「忘れちゃった・・・ごめんなさい。」


 あどけない表情でそう言ってみせた彼女に、ギルはこれまでで最高のほほ笑みを返した。


「愛してる・・・やっと言えた気がするよ。」


 ギルはシャナイアの頭に手を回して、また一つ軽いキスをした。


 彼の言葉は正直嬉しかったが、乗り気にならなくなったシャナイアには、それもまたいかにも手慣れた感じに思えて、嫌な想像と悲しみをあおられるばかり・・・。


 シャナイアは、ギルの肩に頭をつけてしがみついた。それに応えるようにギルは笑顔を向けてやり、亜麻色あまいろの髪をでた。だが二度だけだった。それだけで、ギルはほどなく、そのまれ青紫あおむらさきの瞳を閉じてしまった。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ