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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第9章  同盟国ダルアバスの王子 〈 Ⅵ〉【R15】
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合流


 一人の敵が、戦闘態勢を整えるために降ろされた駕籠かごの上に倒れこんだ。中でおとなしくしているはずのシャナイアの剣が、敵の武器が振り下ろされるよりも先に伸びたからだ。だが駕籠を守っていた味方の兵士は、その男によって殺害されていた。敵の弓兵を片付けたあと大あわてで駆けだしたギルはその瞬間を見ていて、大剣を豪快に振り回し鮮やかに敵を切り捨てながらも、シャナイアのもとへたどり着くまでのあいだ気が気ではなかった。


 ギルは、駕籠かごから出てきたシャナイアと肩を並べた。


「約束が違うんじゃない?」


「ごめんよ、しかしさすがだな。」


 その軽い声とは裏腹に心臓が止まりそうになる寸前だったギルは、息をきらせてささやきかける。

「無事でよかった。」


「もう、無責任ね。」


 ギルはシャナイアを背後へやり、シャナイアも一応顔を隠すようにしてギルの後ろに隠れた。密かに構えている血のついた剣を握り締めて。


 すると、それに気づいたのか突如とつじょ攻撃が止んだ。敵の部隊は、周りに見える奇岩やヤシの後ろへと引いていったのである。だが理由はまだある。まっしぐらにシャナイアのもとへと駆けつけたギル以上に、レッドの戦いぶりは際立きわだっていた。二本の剣をたくみに操り、戦慣いくさなれした兵士を見る間に死体に変えてしまうその男に、これ以上の戦力ダウンをさせられては逆に不利になると、敵側の指揮官が早々に判断したためだ。 


 だがレッドは、背後にいる気配を逃さなかった。そこだっ!と、声を出さずにもの凄い俊敏しゅんびんさで投げつけた石つぶては、パシッという音と共に止まった。


「間違えるな、俺だ。」


 間もなく灌木かんぼくの茂みを越えて出て来たのは、敵ではなく金髪碧眼(へきがん)の知り合いである。


「リューイ、カイルも連れて来たのか。」

 ギルが気付いて言った。


 それにこたえて、続いて大岩の陰から姿を現したのは、接近戦では守る対象が増えることになるだけの黒髪の少年。


「なんで役立たずを連れてきたんだ。」

 レッドは冗談のつもりで顔をしかめた。


「役に立つと思って。」と、リューイ。


「そーゆーこと言うっ?!」


「カイル、ケガをした人がいるから、てあげてちょうだい。」

 シャナイアが声をかけた。


「ほら、役に立つじゃないかあっ。」

 カイルは医療バッグをしっかりと肩にかけ直すと、意気込んで負傷兵のもとへ急いだ。


「来るのが少し遅えぞ。」と、レッド。


「俺もあっちで戦ってたんだって。向こうに何人か転がってる。」 


 そもそも、もう一人来るはずだったのはエミリオだ。これはおかしい・・・と、ギルやレッドも気付いたが、そう、セルニコワの用心棒が偽者にせものと分かった今、エミリオは王女たちを置いていくこともできなかったのである。そして、敵が去ったと分かったこの時になって、エミリオもようやくほかの者たちを引き連れて出てきた。


 そのエミリオやディオマルクは作戦のことを考えて一応注意してみたが、シャナイアが血のついた剣を握り締めて立っているところを見ると、もはや敵をあざむけるのもこれまでと悟ったようだった。


 ファライアはここへ来るなり手で口を押さえ、兄にしがみついた。死闘の跡が生々しく残っているからだ。しかも、一目で数人の味方の遺体も確認できた。


「我々の方も、かなりられてしまった・・・。」

 ギルは、この惨状を振り返って重々しく告げた。


「ああ、なかなか腕のいい射手をそろえてたらしいな。ギルのおかげでその数は激減しただろうが。」レッドも痛恨の表情で大きなため息をつく。「なんてこった・・・一度にこんなにも犠牲者を出しちまうとは。」


「ファライア、彼らはお前のために尽くしてったのだよ。王女として、すべきことがあるだろう。本来なら彼らを丁重にとむらってやらねばならぬが、ぐずぐずしてはいられぬのだ。せめて、彼らに感謝を。」


 おびえる妹をそっと引き離したディオマルクは、そのまま両肩に手を置いて言い聞かせた。 


「ええ、お兄様。」


 ファライアは、殉職じゅんしょくした兵士のかたわらに両膝を付いた。そして、大きな傷から血を流している痛ましくも恐ろしい姿にしっかりと目を向け、優しい手つきで遺体の両手を取って胸の上で組み合わせてやると、その上に自分の両手を重ねて黙祷をささげた。


 ファライア王女は、自分のために命を落とした一人一人に、同じことをして回った。


 負傷兵と、その手当てにあたっている者以外もみな肩を並べ、王女の行動に合わせて冥福を祈った。


 やがて処置を済ませたカイルが道具を片付け終えたところで、そこにいる全員が集合した。その中に、この戦闘で生き残ったダルアバスの兵士はごく少数。


「セルニコワの用心棒は、とんだタヌキ野郎だったぜ。」

 まずリューイがそう報告した。もはや忌々《いまいま》しいのを通り越したあきれ声だ。


「だろうな。今、この場にいないってことは。」と、ギルもすぐさま気付いていたことを言った。


「今のは、弓兵も合わせて、ざっと五、六十人ってところじゃないか。俺たちも半分は殺ったと思うが、どうせ予備軍がいるだろう。」

 レッドが言った。


「だが、こっちの人数をじゅうぶんに上回る頭数あたまかずはそろえたつもりだったろうが、お前一人で百人力ってところまでは読めなかったらしいな。まだ数の上では有利であるのに、逃げ出したところをみると。」

 ギルもそう続けた。


「今後だが・・・。」

 ディオマルクは、みなの意見をうかがおうと言葉を切った。


「合流するかい。」と、エミリオ。


「そうね、こっちの戦力もだいぶ減っちゃったし、そっちもね。」

 悲しげにシャナイアが応じる。


 レッドもうなずいて、こう付け加えた。

「シャナイアが偽者にせものだって、バレちまったろうしな。」








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