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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第9章  同盟国ダルアバスの王子 〈 Ⅵ〉【R15】
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真実と処罰


 背後から聞き覚えのある声がして振り向けば、金髪の青年がニヤリと笑みを浮かべて立っていた。その隣にはディオマルク王子もいる。  


 イアンとアルフは、まず、不適にほほ笑んでいるリューイを、それから厳しい眼差しを向けてくるディオマルク王子、そして、むしろ恐ろしい無表情でいるエミリオをもう一度見た。


 すると、アルフが闇雲やみくもに一人で逃げ出したのである。


「キース!」


 リューイの声で刹那せつなに現れた黒い野獣は、暗い中では得体の知れない影のように動いて、瞬く間に逃亡者を取り押さえた。


 リューイは悠長に歩いてそこへ向かう。このすきに逃げることを考えていたイアンの腕をひねり上げながら。そして、逃げたアルフの方は、キースに踏みつけられたまま恐怖のあまり無様に気絶してしまっていた。


 リューイは手際てぎわよく罪人たちをヤシの木にしばりつける。


 そのあいだにアルフが意識を取り戻し、続いて尋問じんもんが始まった。


 敵の数や作戦などディオマルクは質問を重ね、リューイとキースがおどしかけたが、二人ともに命令以外のことは何も知らされてはいないようだった。


 やがて、夜営の場所を変えるために、エミリオに起こされたカイルとミーアも、眠たそうな顔で荷物を抱えてやってきた。


「どうして教えてくれなかったのさ。」と、カイルが文句を言った。


「ヘマやらかすからだ。」

 リューイは面倒くさそうに答える。


 一方、ヤシの木にくくりつけられたままのイアンとアルフは、もはや観念したようだが見苦しい喧嘩を始める始末しまつ


「だから無理するなって言ったんだっ。こいつは大剣使いだろうがっ。」


「どうせ、こいつが戻ればすぐに嘘だってバレるだろ。油断している隙に不意打ちなられると思ったんだよ。」


「用が済んだら、さっさと逃げればいい話だろっ。ほかは武器を持たない非戦闘員も同然なんだからよっ。」


「おいおい・・・。」

 俺のこともナメてたのかよ・・・リューイは呆れて言葉を失った。


「非戦闘員・・・王女を除いて、あなた方の目にそう見えた者は・・・正確には一人ミーアだけだ。」

 やれやれ・・・そんなため息をついて、エミリオもつい口をはさんだ。


「いつから勘付かんづいてたんだ。」

 イアンがふてくされた口調できいてきた。


「旅を始めた最初の日からだよ。あなた方からは戦士のニオイがしなかったんでね。屈強の戦士のニオイがだ。」

 エミリオが答えた。


「それと、お前らがわざわざ残していた印は、俺がいちいち消しに行ってた。この野営地に付けられたものも、さっきな。」と、リューイ。 


「もともと来るはずだった二人の兵士はどうした。イスディル王子が送ってくれた近衛兵たちのことだ。知っているのだろう。」

 ディオマルクが最後の質問に出た。


「落石にって、死んじまったよ。」


 ごまかそうともしないことから、アルフの言葉は嘘ではないように聞こえた。


「あなた方の仕業しわざかい。」

 エミリオが確認する。


「ああそうさ。」


 エミリオ、リューイ、そしてディオマルクが視線を交わし合った。質問は以上でいいか・・・というように。


 そしてリューイが真っ先に背中を向ける。


「だってさ。じゃあ行こうぜ。」

 そう淡々と口にしながら、リューイは肩に大きな荷物をかつぎ上げた。


 次々と荷物を手に取っていく一行いっこう。そして、罪人をその場に放置したまま離れだした。


「お、おいこら!見殺しにする気か!」


「本当のことを教えただろ、縄をほどいてくれえーっ!」


「キースに食われる方がいいか?」

 だからなに?といった笑顔で、リューイが肩越しにきいた。そんな内容の真実を聞かされても気分が悪いだけだ。


「くそっ、バカヤローッ!」


 暴言ぼうげん、悲鳴、哀願あいがん・・・罪人たちがいろいろと必死になってわめいたところで、ミーアやファライア以外は、そのまま振り返ることもなく足を進める。


「あの人たち、死んじゃうの?」

 荷物と一緒に、エミリオに片腕で抱き上げられたミーアは、心配そうに可愛い眉をひそめている。


「大丈夫だよ。朝になればここを誰かが通るだろうから・・・たぶんね。」

 エミリオはそうほほ笑んでみせた。


 本当のところは、今の状況で彼らをらえたまま連れて歩く余裕がない。この場で殺してしまうか、拘束して放置するかの二択だ。運が良ければ助かり、任務に失敗したこの者たちはさっさと行方ゆくえをくらますだろう。


「それに頑張って死に物狂いでもがけば、あの縄もそのうち外れるようになってる・・・たぶんな。」

 リューイの方はまるでどうでもいいという口調でそう言った。








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