銀の笛
急に冷えてくる砂漠地帯の夜。囮の一行は、立ち塞がるように連なる岩や、灌木に紛れることのできる場所にテントを張って休んでいた。小さなランプの明かりと外套や毛布で寒さを凌ぎながら、ギルとレッド、そしてシャナイアは同じテントの中にいてまだ起きていた。
こちら側の隊の指揮官は、満場一致でレッドが務めている。囮とはいえ、隊員もみな腕は悪くはない。ただ、これまで傭兵部隊、それも精鋭ばかりを率いてきたレッドから見れば、剣術が特に優れているという者もおらず、戦闘能力ではいくらか心もとなさはあった。二十代後半から三十代前半の者を中心に編成された部隊で、代わりに体力はじゅうぶんにあるのだが。
そしてギルは、さしずめ副隊長といった位置づけにされている。突然知り合ったという設定にもかかわらず、理由はどうであれ、ギルもレッドもディオマルク王子から直々に紹介があったことから、王子や王女の近衛騎士にも特に問題なく受け入れられた。
犠牲者をできるだけ出さないためにも、早い段階で話し合いができればいいが・・・。そう考えているレッドとギルが、この周辺の様相や天候から、進路などについて意見を交わしているあいだ、シャナイアはずっと、レッドが首にかけているペンダントトップの小さな銀の笛を、どこか浮かない顔で眺めている。
「その笛、ちゃんと鳴るんでしょうね。」
「たぶんな。」
いい加減に答えるつもりはなかったが、レッドは話の途中で入ってこられたので適当な返事になってしまった。顔もギルの方へ向けたままである。
「ちょっと、こっちが危なくなったら、エミリオとリューイには早く来てもらわなきゃ困るじゃないのっ。私が頼れるのは、あなたとギルだけなんだから。」
「自分だって戦えるだろ。」
失礼なことを平気で言うヤツだと呆れたレッドは、やっとシャナイアを見て答えた。
「こんな長い服着てたら、ろくに躱すこともできやしないわよ。」
シャナイアは座ったままで、ぶつくさ言いながら、くるぶしまであるスカートの裾をうっとうしそうに掻き寄せてみせる。
「はしたねえぞ、似非王女。いいから、お前はもう寝ろよ。」
相変わらず痴話喧嘩が絶えないそんな二人を、ギルも今さら気にはしない。そんなことより気になるのは、敵の動きの方だ。
「今日は刺客の気配はなかったな。」
緩んでいた空気が途端に緊張を帯びた。
「あいつらの方が、先にこれを使うなんてことにならなきゃいいが・・・。」
急に深刻に戻ったレッドも、手のひらに乗せた銀の小笛を見つめる。それと同じものを、エミリオも渡されているのである。




