助っ人
夜の帳が徐々におりてくる中。どこか身を潜めながら休めそうな場所を求めて、一行は砂漠にあるヤシの森の中を慎重に進んでいた。
エミリオ、リューイ、カイル、ミーア、キース、ディオマルク王子とファライア王女、そして、二人の戦士である。
その二人は無論セルニコワ王国からの助っ人で、事前に聞いていた話によると、ファライア王女の婚約者であるイスディル王子が、自ら指名して寄越してくれた近衛兵だという。実際の彼らは情報をもとに想像していた感じとはまるで違っていたし、二人ともとても寡黙だ。
影武者のシャナイア、それにギルとレッドもいる囮の部隊と付かず離れず行動するために、日が暮れてきたら無理をせず、すぐに夜営の準備にとりかかると決めていた。互いの居場所を知るのは、案内役のキースがいるので難しいことではなかった。
やがて彼らは、道を折れて川のせせらぎが聞こえる方へ向かった。砂漠地帯ゆえ緑よりも砂地や岩石の方が目立つが、水源があるダルアバスの王都でもそうであるように、どこまでも砂丘が続くような過酷な環境ではない。大きな川も流れていて、その周辺では植物も育つこのような緑が集まる場所がある。巨大な岩山の水源から湧き出す水が川となり、そこに沿って形成されたオアシスの一つだ。
「セルニコワ(王国)のイアンさんもアルフさんもこっち側だし、あっち二人で大丈夫かなあ。」
そう言いながら振り返ったせいで、カイルは地面から突き出している岩石につまずいて悲鳴をあげた。
助っ人の二人は気づかわし気な表情でほほ笑んだ。装備から見ると共に片手剣の使い手らしく腰に剣を帯び、戦闘服からはほかに短剣の柄ものぞいている。
「二人じゃないだろう、カイル。心強い部隊もついているのだから。」
エミリオは振り向いて、またカイルが引っかかりそうな出っ張りに注意を促しながら言った。
「でも、確かダルアバス王国は守備力を誇る国って言ってたよね。それって攻撃は苦手ってことじゃないの?どういうこと?」
その国の王子や王女がいるというのに、気にすることなく普通にそう言ったカイルに対して、エミリオの方は声をひそめる。
「私も詳しいわけではないが・・・。知恵と技術が優れているダルアバス王国だが、そのうえ兵器の製造に必要な資源が豊富であることから、そこを領土としたがる国も少なくはない。しかし、戦いにおいては上手く判断や指導ができる有能な武人が乏しいらしい。一方、アルバドル帝国は、財力が乏しい王国だったその昔から、戦術や戦闘能力に優れた人材には恵まれていた。今の皇帝、つまり、ギルの父親であるロベルト皇帝陛下も、その一人だったのだろう。そして、それに気づいたアルバドル王国(帝国)の有権者たちは、ダルアバス王国に同盟の話をもちかけ、そうして両国は古くから互いの利益のために協力してきた。アルバドル帝国が大陸屈指の強国だと謳われるようになったのは、まだ弱小だった当時から決して裏切らず信じてくれたダルアバス王室の存在があったおかげだと、ギルが言っていた。著しい発展を遂げることができたのは、ダルアバス王国から技術や知恵など、いろいろと学んだおかげだとも。」
そう小声で代弁してくれるエミリオのそばで、聞き耳をすましているディオマルクは静かにうなずいている。
「そういうこと。でも、じゃあやっぱり、戦慣れしてるのはギルとレッドだけなんじゃないの?そりゃあ、あの二人なら百人力だけどさ。」
「カイル、もう一人剣の達人を忘れてるぜ。」
慣れた足取りで意気揚々と先頭を務めるリューイが、振り返らずに言った。
「え・・・。」
「シャナイアも一流の戦士だよ。」と、エミリオ。
「あ、そっか。」
「そういえば、彼女は女戦士だと聞いたが・・・ギルベルトの話では確かな腕前らしいと。」
「でも、僕も戦ってるところは実際に見たことってないし。ちゃんと知ってるのは、レッドだけなんだ。」
「シャナイアは、女戦士養成所リアラステール出身の一流戦士だそうです。レッドの話では、一国の王女の用心棒として雇われるほどの実力だと。」
「彼女の剣の舞か。それは美しいのだろうな。一度手合わせ願いたいものだ。実は実戦経験はないのだが、軍の指導者だけでなく、幼馴染みのギルベルトにも稽古をつけてもらっていた。おかげで、多少はギルベルトの相手にもなれるほどには上達したよ。もし余のことも気にかけてくれているなら、少しは安心できたかな。」
エミリオとリューイは、顔を見合って苦笑いを交わした。正直、王子も守らなければという使命感と緊張があった。本来の理由以外にも、実際に今、油断ならない状況にあるからだ。そのことに王子自身も気付いているのだと、二人は悟った。
「それにしても、こっちのメンバーって・・・ほんとバラバラだよね。子供に剣士に野獣に格闘家に精霊使い・・・。ファライア王女もディオマルク王子も、変装して歩いてるし。これなら――」
「カイル、俺とお前は見た目じゃ分からねえだろ。」
「そっか。」
「お前は精霊使いじゃなくて、《《子供》》だと思われるんじゃないか。」
「だから普通に言うのやめてっ。」
リューイに言われると余計に傷つく、とカイルは思う。
「カイル、王女と王子は禁句よ。」
二人の軽快なやりとりに上品な笑い声を上げながら、ファライアが言った。
「ところで、我々は確かに彼らのあとを追っているのだろうな。それも、笛の音が聞こえる範囲内で。」
ディオマルクが不安そうな顔できく。
「キースに任せておけば、大丈夫だって。」
自信満々に答えてみせたリューイは、迷うことなく先導してくれる森の相棒に目を向けた。




