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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第9章  同盟国ダルアバスの王子 〈 Ⅵ〉【R15】
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不審な行動のわけ



 ギルは、そうきいてきたエミリオだけでなく、ほかにも あらかた読まれていることをさとって、深々《ふかぶか》とため息をついてみせた。


「ああ。実に言いにくいんだが・・・俺としたことが・・・。」


 そうしてギルは、おどおどしながら自分の不審な行動のわけを説明し始める。


 すると途中、ギルの予想通りにレッドとリューイ、さらにカイルがこう大声を上げた。


「勝負に負けたあ !?」


 毎度のことながら、こういう時は面白いように息が合う。一人を除いて。

 そしてその声は、反響効果のあるこの浴室内においては、驚くほど大きな音となってこだました。


「きき返してくるな・・・。」

 ギルは苦い顔でうるさそうに耳をふさぎ、うなずいてみせる。


「怒られたろう。」と、レッド。


「ああ、こっぴどくな。だが、結局は承知してくれた。」


「ほう・・・。」


 エミリオが見透かしたような反応をしてきた。

 レッドも何か探るような眼差しをずっと向けてくる。


 ギルはマズいというように目をらした。認めてしまえば、ずっと我慢していたせいもあって、とうとうやっちまった。彼女を黙らせるのに、ほとんど勢いで思わずあんな手を使ってしまうとは・・・。


「と、それでだ。」 


 ギルが誤魔化すようにさっさと話題を移そうとすると、その続きをレッドが要領よくまとめた。


「要するに、シャナイアをファライア王女の影武者にし、二手ふたてに分かれて王女を隣国のセルニコワ王国まで密かに送り届けるってわけだろ。追っ手はシャナイアの方に引き付けて。」


「シャナイアに叱られるのを承知で、協力する気になったのはなぜだい。」


 まるで責める様子もなく、エミリオは穏やかな声で問う。ギルがその勝負に乗った時点で、そういうことになる。


 ギルは答えた。

「ここダルアバス王国は、レトラビア王国とともに、平和志向へ動き出したラタトリア地方の先駆者だ。だから、下手に目立つことをして近隣国に誤解・・・つまり、勢力を拡大する政略結婚だととられるのを避けたいそうだ。」


 この時、レッドはふと考えていた。


 レトラビア王国といえば、思い出されるのはユリアーナ王女のこと。人質にとられていた彼女が帰国する際にも護衛は少数精鋭(せいえい)のぞんだが、あの時は確か、王女を正式に解放することによって、戦乱の時代の高圧的なイメージを緩和かんわさせる目的もあったと聞いた(※)。だが残念なことに、未だ必要以上に他国を警戒している国は少なくない。エドリース(大陸西部)の激戦が止まない現状では、なおさら無理もないが・・・。


「実際、まさに今、王女を殺害しようとしている者たちも、機会があれば説得するつもりでいるらしい。それまでの身代わりだ。もし正体がバレて相手が話に応じなくとも、人違いだと分かればあわてて本物を探しに行くだろう。そのあいだに、密かに安全圏まで逃れやすくなる。それに、ファライア王女とイスディル王子は確かに愛し合っているということだったんでな。それで、お前たちの話もさせてもらった。ディオマルクのヤツ、心強いなんて大喜びだったよ。」


「そうくると思ったさ。」

 リューイはもはや割り切ったような声で言った。


「悪いな。都内ですでに暗殺の動きがみられる以上、極秘に出発するために傭兵ようへいなどをやとうつもりもないらしいからな。お前もそうだが、こういう場合にレッドやエミリオは百人力だろう? その代わりに、セルニコワ王国から、腕のたつ助っ人が密かにこっちへ向かっているそうだ。二人だけな。」


「二班に分かれる選別は、もうできているのかい。」

 エミリオがきいた。


「いや、これからだ。とりあえず、俺はシャナイアに付くよ。彼女側の方が危険になるからな。」


「僕はどっちにするつもり?」と、カイル。


「王女側だな。《《子供》》がいる方が、敵をあざむきやすい。」


「そこ普通に言うの、やめてっ。」


「だが王女を歩かせるわけだろう?付いて来られるのか。」

 不安そうにレッドが言った。


「ファライア王女の趣味は乗馬だ。少しはきたえておられる。シャナイアと体型がそう変わらないのは、そのためだろう。彼女も長身だしな。」


 そう答えて、ギルはエミリオの方を向いた。


「それから、エミリオ・・・。」


「なんだい?」


 最後にまた苦い顔をしたギルは、ため息混じりにこう報告する。


「お前の正体も、すぐにバレちまった・・・。」






※ 関連章 ―― 外伝 『 レトラビアの傭兵 』







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