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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第9章  同盟国ダルアバスの王子 〈 Ⅵ〉【R15】
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王家の浴室で




 ダルアバス王国は、地中から湧出ゆうしゅつする温水を有意義に利用できる技術を持つ国である。大陸の歴史上、技術力では何においても優れているこの国は、浴槽に温水を常に供給できるシステムをどこよりも早く確立したという記録をもつほど。


 そういうわけで、ディオマルク王子の指示通りに抜かりなく動く召使いによって、彼らは王家自慢の温泉へと案内されてきた。大衆浴場でもないのに広大な浴室には大理石や碧玉へきぎょくでできた また大きな浴槽があり、その中心には神をかたどった彫像ちょうぞうが飾られ、採光さいこうのための天窓てんまどではステンドグラスが輝いている。


 ギルとエミリオが慣れたようにその浴槽の段に座り、半身浴で遠慮なくくつろいでいる一方で、レッド、リューイ、そしてカイルの三人は湯船に浸かることも忘れ、そろってほうけたように口を開けて突っ立ったまま、そんな豪勢な浴室じゅうを眺め回している。


「お前たち・・・バカみたいだぞ。いくら何でも驚きすぎだろ。」

 ギルが呆れて声をかけた。


 ちょうどその時、いきなり五人の若い女性が入ってきたので、あわてたレッドとカイルは、とっさに湯の中へ飛び込んだ。リューイはというと、もともとはだか同然の格好で密林を駆け回っていたこともあり、幼い子供のように恥ずかしいという感情が欠落しているらしく堂々としている。


「お背中をお流しいたします。」

 事務的な口調で彼女たちは言った。


 ギルは、代表してレッドの顔をうかがう。


 レッドは勘弁かんべんしてくれといわんばかりに顔をゆがめながら、小刻こきざみに首を横に振りたててみせている。


「申し訳ないが俺たちは必要ないよ。ありがとう。」

 ギルは彼女たちの方へ首を向けて答えた。


「ですが、ディオマルク王子の命により、手厚くもてなすよう申し付けられております。」


「実は、今から俺たちだけで大切な話があるんだ。そう殿下に伝えてくれれば分かるから。」


「そうでございますか・・・では失礼させていただきます。」


 彼女たちは素直にギルの言うことをきいて、出て行った。


「ああびっくりしたあ・・・。」

 カイルはへなへなと口まで湯に浸かった。


「なんなんだ、ありゃあ。」


 そうレッドもぼやいているあいだに、一人遅れて、リューイも湯に足をつけにきた。


「かわいそうに。せっかくだから、もてなしを受けてあげればよかったのに。今頃は王子のおしかりを受けはしないかと、おびえているんじゃないかな。」

 エミリオが優しい口調で淡々と口にした。


 レッドは唖然あぜん・・・というより愕然がくぜん

「あんないきなり現れた見ず知らずの年若い娘に、全てをさらけ出せっていうのかっ。いったいどういう神経してるんだ。」


「こういうところでは、あれで普通なんだよ。俺たちから見れば、お前たちの方がよほど変わってるぞ。そんなれするようないい体で、なに恥ずかしがってるんだ。」と、ギルも平然と答えた。


「もしかして・・・宮廷生活中、自分で体を洗ったことなかったのか?」


「ああ・・・ない。エミリオも、そうだろう?」


「確かに・・・なかったな。」


王侯貴族おうこうきぞくって・・・。」

 二人のあっけらかんとした返答に、そばで聞いているカイルも絶句。


「まあ・・・俺たちは客人だが、主人の体を綺麗で清潔に保つことは、女性の召使いの務めだからな。そのへんの庶民の感覚が分からないディオマルクが、普通に気を利かせたんだよ。だから、今頃はシャナイアも、女の召使いのご丁寧なもてなしを快く受けているんじゃないか。」


 女の召使いのご丁寧なもてなしを快く受けている・・・というのは外れてはいなかったが、実際、そのシャナイアが今いる場所は浴室ではなく、同じ建物内にある観葉植物で飾られた応接室。そこでシャナイアは、アロマキャンドルとオイルマッサージによるリラクゼーションにまったりしている最中で、幼いばかりでなく実はお姫様であるミーアも、ギルやエミリオ同様当たり前のように世話をしてもらい、先に入浴していた。


「それどころか、ディオマルクのことだから、《《そういうおもてなし》》が、このあとも普通に用意されていると思うぞ。」


「そういうおもてなし・・・。」


「俺たちみんな、ここへ来る前に案内された寝室は、それぞれ全く別の場所だったろう。」


 リューイはさておき、レッドはカイルと目を見合う。


「ちなみに俺は予想がついたもんで、ディオマルクの方に事前に断っておいた。嫌なら断ればいいが、ここの侍女じじょたちはみんな自分の美貌やその手のあれこれに自信を持っているからな。プライドが高いぞ。断るなら傷つけないように。」


「そんな難しいことができるか。やり手の美女を普通に寄越される前に、あんたの方から断っておいてくれ。」


「それって僕もなの? 初めてが年上の手馴れたお姉さんなんて、やだよ。」


「ところで、ギル。」と、エミリオ。「私たちに大切な話があるらしいね。さっきのは、とっさに思いついたというわけでもないのだろう?」








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