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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第9章  同盟国ダルアバスの王子 〈 Ⅵ〉【R15】
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月夜のデート 



 ダルアバス王国の王宮には、小さなバラ園を囲む図書と芸術の館がある。化粧漆喰けしょうしっくいほどこされた唐草模様からくさもようや、かしりの窓や天井が見事な建物で、種類別に分けられた書籍や絵画の部屋が並んでいる。全体的には二階建てだが、バラ園に面している一部は三階にも部屋があり、ディオマルクは、とりわけ落ち着けるその部屋を好んで、一日の終わりにそこで読書をしながら過ごすことも多かった。


 だが最近は、もうすぐ別々の生活をすることになる寂しさからか、侍女じじょを連れたファライアが兄の姿を求めて度々来るようになり、今も二人は一緒にその部屋にいた。その間、侍女たちは部屋の前で待たされることになる。


「ねえお兄様、ギルベルト様は、なぜあのような不思議なことをなさっているのでしょう。お連れの方々は、アルバドル皇室の従者などではございませんわよね。」


 向かいのソファーに座っている兄をただ眺めているばかりだったファライアは、兄が読書に夢中であることを気にもせずに、そう声をかけて邪魔をした。


 ディオマルクは少し思案したものの、うろたえることなく読書を続けながら答える。

「ああ、それは・・・だね・・・花嫁探しだよ。正体をいつわり、身分を気にせず我が妻となる者を自ら選びたいそうだ。相も変わらず妙な男だ。国では極秘だそうだから、父上と母上にもこのことは知らせぬように。彼はギルベルト皇子によく似た別人だ、いいね。」


「そうですの・・・分かりましたわ。」


 ひまを持て余しているファライアは、今夜の明るい月と星空でも眺めようと腰を上げてバルコニーに出た。が、そこで偶然 目撃したものに、思わず声をはずませてまた兄を呼んだ。


「まあ、お兄様ごらんになって。」


 ディオマルクは黙読している目の動きを止めて、妹を見た。そのファライアは笑顔でしきりに手招てまねきしている。ディオマルクは本をテーブルに置いて立ち上がると、ファライアが目で示してみせるものを確認しようとバルコニーに出た。


 すると、一組の男女が、仲むつまじく眼下のバラ園にやってくる。やや遠目だったが、そこは柱廊ちゅうろうを照らすランプに囲まれる中庭で、廊下から漏れているその灯りのおかげもあって、姿や動きは見てとれた。


 ちょうど話題にあがった二人、本来はアルバドル帝国の皇太子こうたいしと、亜麻色あまいろの髪の美女だ。


 ディオマルクはついフッ・・・と笑い声を漏らしてしまった。ギルベルトは家出をして平民になりすましているようだが、無意識にも完璧なエスコートは上流貴族そのもの。それに、とにかく約束を果たそうと動いてくれたのだとわかった。 


「わたくし、先ほど彼女を見かけましたわ。本当にお美しい方で驚きました。わたくしの身代わりをしていただくなど恐れ多いほどに。」


「まったくであるな。せめてその前に、彼女と二人きりに・・・。」


「お兄様。」

 ファライアは声を荒げて兄をいさめる。


「冗談だよ、ファライア。ギルベルトが許してくれぬ。」


 ディオマルクは肩をすくってみせ、それからまたバラ園の二人に目を向け直した。


「さすがに手馴てなれておるな。ほら、ファライア、あの男はああやって多くの貴人を手玉にとってきたのだよ。」


「それはお兄様のことでございましょう?それにしても、あのお二方、とてもお似合いで素敵ですわ。彼女がギルベルト様のおきさきになられる方かもしれなくてね。」


 その言葉が、驚くほど胸にこたえた。ディオマルクは急に寂しくなり、思わずため息をついていた。


「ああ・・・そうだね。」


 背中を返して部屋へ戻ろうとする兄の心境にも気付かずに、ファライアは月夜のデートを楽しんでいる二人をほほ笑ましく思いながら見つめた。









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