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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第9章  同盟国ダルアバスの王子 〈 Ⅵ〉【R15】
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欺けぬ仲



 また一人、美人でオリーブ色の瞳が魅惑的な侍女じじょについて行きながら、ギルは、美しい鍾乳石しょうにゅうせき飾りのアーチが連なる通りを抜けた。そしてそのまま、中庭を囲う二階の回廊をまわって、この御殿でいちばん見晴らしのよい場所へと向かう。自分一人だけが連れ出される理由を、ギルはあえて聞こうとしなかった。


 そうしてギルは、やがてディオマルク王子の部屋の前まで案内された。


「殿下、お連れいたしました。」


 ノックのあとに、侍女がそううやうやしく声をかけると、間もなくドア越しに王子の返事があり、そのあと中へはギルだけが通された。


「失礼します。」


 広々としたその部屋の色鮮いろあざやかな黄色の壁には、鳥や草花をモチーフにした見事な模様もようが描かれている。ギルにとっては、なつかしい場所だ。


 窓際まどぎわ椅子いすに座っていたディオマルクは立ち上がって、客人を迎えた。


「呼び立ててすまぬ。久しくしておったが、そなたとぜひまた勝負がしとうなってな。」

 ディオマルクはそう言いながら、優雅な手の動きでギルを奥へ誘った。


「・・・と、仰いますと・・・。」

 ギルはおずおずと演技しながら、一応しらばっくれてみた。


「知らぬと申すか。なるほど、余の双眸そうぼう節穴ふしあなと。」


「王太子殿下、誠に恐縮ではございますが・・・その、お言葉の意味が・・・。勝負でしたら、私ではとてもお相手になりません。どうかほかの者を。」


「それは残念だ。今宵こよいの懸け物はもう決めておったのだが。では力づくで我がものにいたすとしよう。いや実に美しい。あの輝くばかりの美貌は、ぜひとも手に入れたい。まずは邪魔されぬよう優位に立ちたかったが、正々堂々そのような勝負というのもなかなかに楽しめそうだな。そなたには受けてたつ理由がござろう。」


 その瞬間、ギルの顔つきが変わった。


「それは、エミリオのことを言っておるのか・・・ディオマルク。」


 ディオマルクはニヤリ・・・と笑みを浮かべる。


「ギルベルト・ロアフォード・ルヴェス・アルバドル。帝国アルバドルの皇太子、ギルベルト。相も変わらず不可解な男だ。」


 ギルは深々とため息をついてみせた。

「やはり、そなたはあざむけぬか。」


「だが、そなたが有り得ぬ真似をしておるおかげで、さすがに余も戸惑わずにはいられなかった。確信を得てもな。」


「確信か・・・なぜ見破みやぶれた。」


「なぜ・・・だと?」と、ディオマルク。「そなたも、もはや開き直っていたではないか。地声で話し、雰囲気も包み隠さず。晩餐会ばんさんかいの席にいたのが、皇子としてのそなたではなく、余の前で見せるギルベルトとしてなら何ら変わりはない。」


 そうなのか・・・と、ギルは思い返してみた。ディオマルクの前で、あそこまで軽い態度を取った覚えはないつもりだったが?


「さて・・・何ゆえ皇子ともあろう者が、それにあるまじき行動をとっておるのだ。連れの者たちは変装した従者とも思えぬ。よもや遊行ゆぎょうおもむいたわけではあるまい。」


「話しても、恐らく理解できぬ。それより、私に受けてたつ理由があるとはどういう意味だ。」


「いらぬ手間をとらせるでない。」


「では、早々に退出するとしよう。今の私がこの部屋にいること自体、無意味。これ以上のやりとりこそ、いらぬ手間というものだ。」


「よかろう。そなたは、余が、今宵こよいあの佳人かじんを寝室に招き入れても構わぬと申すのだな。」


「悪いが、その仲間たちと共に、そろそろ失礼させていただく。御馳走になった。手厚いもてなしに感謝する。」


 女癖おんなぐせの悪さは相変わらずかと呆れ、ギルはいきり立ってディオマルクに背を向けた。


「待たれよ。そなた、帰国する意思はあるのか。」


「なぜ私が、このような不可解な行動をとっているか。ただの悪ふざけと思ってくれても構わぬ。一つ言っておくなら、これは城の者・・・いや、アナリスと、その夫となるべき男以外の者には告げずにしたことだ。」


「その男に全てを託したのだな。では、二度とそなたと勝負はできぬのか。そなたに慈悲があるのなら――」


「彼女を懸け物としている以上、その勝負に臨むわけにはいかぬ。」


 ギルはそのままドアへ向かった。


「気をしずめられよ、ギルベルト。余が愚かであった。あれは本心ではないのだ。いや、全くそうとは言えぬが。とにかく目的は別にあるのだ。彼女を貸していただきたい。」


「貸して・・・? 何にしても断る。それに、あいにく彼女は私の何というわけでもないのだ。」


「そなたの口から頼むことはできよう。余の直感が確かならば、それは遥かに効果的なはず。ぜひ彼女の協力を得たい。ファライアのために。」


 ギルはドアの直前で立ち止まり、肩越しに振り返った。


 ファライア・・・王女のために、だと?


「・・・いいだろう。話は聞くが、わずかでも不快を感じた場合には、その時点で即刻断らせていただく。」


「承知した。」


 ギルは、ディオマルクに向き直った。

「それで、彼女を何に利用しようというのだ。」


「そなたは、我が妹とは長らく顔を会わせてはおらなんだな。あれももう二十一の歳になる。」


 そう言って、ディオマルクはバルコニーがある大きな窓を開けに行った。


「ファライア、さあ、ここへ。」








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