神話のつづき
「あ、あった、あったよ!ほんとに、あった!彼女の服に付いてた!あの帯留めの飾りに、ノーレムモーヴがいたよ!」
「カイル、でも、ほら・・・あの二人、なんか別れの言葉交わしてるみたいだけど・・・。」
レッドはそんな二人を指差して、狼狽するあまり挙動不審なカイルに冷静にそう言った。
「バカね、早く行って教えてあげなさいなっ。どうして、ここへ真っ先に戻ってくるの。」
「だって、邪魔するなって言ったじゃないかあっ。」
しどろもどろになりながら、カイルは再び二人に近づいて行く。リューイとメイリンは別れを惜しんでまだ離れられずにいた。
「メイリン、どうか元気で。」
「リューイもね。私、あなたのこと忘れたいって言ったけど、嘘よ。短い間だったけれど、私・・・あなたのこと本気で好きになったもの。」
「俺も、あんたのこと好きだ。」
メイリンは顔が悲しみに歪むのをこらえようと下を向いた。
「もう・・・最後にそんなこと言っちゃダメよ。」
「あんたも言ったろ・・・。」
「記憶が戻って、よかったわね。ほんとは真っ先に、そう言ってあげるべきなのにね。私ったら、夕べは困らせてごめんなさい。」
健気に笑顔を向けてくれながらも涙声になるのはどうにもできないメイリンに、リューイは黙って首を振り、見つめ返してほほ笑んだ。
一方、そばでただ口をぱくぱくさせているだけのカイルは、ここでやっとタイミングをつかんで遠慮がちに一歩踏み出す。
声をかけるなら、今だ。
「あのう・・・ちょっといいですか。」
「なんだ、カイル。さっきから。」
リューイが呆れ顔で振り返る。
「ええっと、その・・・彼女さ・・・仲間みたいなんだけど・・・。」
「え・・・。」
そのまま、数秒・・・。
「だから、その、僕たちが探してた・・・その人なんだよね。」
唖然となったリューイはおいておき、カイルはさらに歩み寄ると、彼女の胸の下を指差して言葉を続ける。
「あの、その帯留め・・・ちょっといい?それは・・・?」
「これはパパとママの形見よ。リューイ、私が仲間ってどういうことなの?」
さっぱり訳が分からないメイリンにそうきかれて、リューイも自分たちの目的を今思い出した。それから頭の中でいろいろと整理してみる。
「いや、どういうことって・・・って、ことは・・・。」
「彼女と別れられたら困るんだよ。」
少し前からそばに来て、この様子を見守っていた三人のうちギルが言った。
「悪いな、リューイ。せっかくいい雰囲気で、最後決めてくれたみたいだけど。」
続けてレッドも苦笑しながら そう ひやかした。
「つまり、あのね、僕たちはちょっと事情があって、仲間を探してるんだ。でも仲間と言っても、みんな初対面の人で・・・。だから、僕たちもみんなそうだった。そんな仲間のしるしっていうのが、君が持ってる、その緑色の石なんだ。精霊石って言われているものなんだけど・・・詳しいことは、あとでゆっくり話すよ。」
その少年の言うことは突拍子もなさすぎて、メイリンには返す言葉がすぐには見つからない。
それでメイリンは、またリューイの顔をうかがう。
「あなたも持ってるの?その石。」
「ああ一応・・・。」
ポケットに手を入れて、リューイもそれを取り出した。確か、カイルからいきなりネプルスオーク〈海の神〉の精霊石だと言われたものを。
「この青い石がそうなんだと。」
「で、僕のはこれ。」
首にかけている皮紐をたくしあげて、カイルも闇の神ラグナザウロンの精霊石を見せた。
そのあとほかの者も気をきかせて、レッドが大地の神の精霊石を出してみせると、シャナイアはブレスレットの太陽神を、そしてギルは、頭上で旋回しているフィクサー(大鷹)を呼び戻して、首輪に付けた月の女神を見せた。
「君のは、森の神ノーレムモーヴの精霊石だよ。ね、みんな初めて会うのに、同じようなもの持ってたんだ。とりあえず真面目な話だってことは分かってくれた?みんな、リューイみたいにいい人ばかりだよ。どう?僕たちの仲間になってくれないかなあ。」
少年の話の全てをすんなりと受け入れることはできなかったが、その最後の言葉を聞いたとき、メイリンは、切なくて胸が潰れそうになる夜を迎えるはずだった恐怖から、パッと解放された気がした。
だが、訳が分からないという戸惑いも無視はできない。
「リューイ・・・私・・・。」
複雑な心境で見上げてくるメイリンを、突然のことに気持ちがついていけずに、リューイもまた同じような顔で見つめ返した。
だが、しばらくして。
少年の方へ首を向けたメイリンは、ぎこちなく、それでも少年の目を見て一つ確かにうなずいたのである。その瞬間、リューイは思わず両腕を回して メイリンの肩を抱き寄せていた。
すると、その時。
ゆっくりと昇り始めた太陽の射す光が、まるで二人を祝福するかのように照らし出した。
〝迎えにきたよ・・・〟
レッドは目を瞬いた。そして視線は反射的にリューイと彼女の方へ。
今、そんな声が聞こえた気がしたからだ。
「俺・・・今、柄がらにもなくロマンチックなこと考えちまった。」
すると、ギルもこう答えた。
「実は・・・俺もだ。」
この時、二人にはその神話の続きが見えた。
オルフェとリーヴェの物語 (※)。
それは本来、切ない悲話として知られているのだが・・・。
〝迎えにきたよ・・・リーヴェ。やっと見つけた・・・〟
.・✽.・ E N D ・.✽・.
※ 「オルフェとリーヴェの物語」は 外伝『天命の瞳の少年』― 第2部 に登場する作者の作り話です。




