人さらい
「メイリン!」
リューイはあわてて駆け戻り、家の中へ飛び込んだ。
「メイ・・・!」
そして愕然と佇む。
暗がりはさらに増して見えづらかったが、その中でもすぐに事態は把握できた。いつの間にやら、家は五人のならず者によってすっかり占領されていたのである。その五人は夕食の残り物に手を付けながら、面白くもなさそうな不機嫌面で、テーブルや椅子にどかっと腰を下ろしている。そしてテーブルの上には、ふてぶてしく腰かけている無精髭の大男。メイリンは、その巨漢に背後から毛むくじゃらの腕を回されて、身動きがとれずにいる。
大男は、リューイを見てニヤリと口元をゆがめた。
「よお、悪いが恋人はもらってくぜ。」
それから明かりを子分に点けさせたその男は、リューイの顔がはっきりと見て取れるようになると目を丸くして、思わず嘆息を漏らした。
「こいつ、綺麗な面してやがるぜ。惜しかったなあ、あいにく、男には興味ねえんだ。下手な真似しやがったら容赦しねえからな。長生きしたけりゃ、しばらくそこでおとなしくしてな。」
「彼女をどうする気だ。」
「金目の物が何もねえだろうが、このしけた家にはよ。だから、ちょっと付き合ってもらうだけさ、金になるまでな。幸い、すぐに売れてくれそうな面だぜ。」
大男は、メイリンの女らしい顎を荒っぽくつかんで、肩越しに振り向かせる。
メイリンは、その下品で恐ろしい目から逃れたくて顔を背けようとしたがかなわず、嫌悪感に耐えかねて固く目を閉じた。
その一味が侵入してきた窓越しには、ちょうど今やってきたばかりのギルとレッドがいて、この事の成り行きを、ただ固唾を呑んで密かに見守っている。
「何かが起きるってのは、見事に的中したなレッド。」
「起きたのは予想外のことだったけどな。けど、おい、どこまで待てばいいんだ、もう既にヤバそうじゃねえか。」
「大丈夫だ、奴らが彼女を傷つけないのは確かだから・・・もう少し。」
「とか言って、いきなり乱暴されたらどうすんだ!俺は、ああいう奴らが無性に業腹ならねえんだよ!」
ギルは室内に向け続けていた視線を戻して、いきり立つレッドの目をのぞき込んだ。
「過去に何かあったのか?」
「いいや別にっ!」
そんなレッドの見ている先で、情けなくその場に立ち尽くしたままのリューイは、ただやっとのことで悪党に言い返しているのである。
「メイリンを放せっ。」
「兄ちゃん、無理すんな。俺らが怖いだろ?そう顔に書いてあるぜ。おとなしくしてりゃあ、痛い目見なくて済むからよ。」
大男は相手にしていられないといった様子で、虚勢を張るリューイを軽くあしらう。そのあとリューイには、子分たちのひどく品の無い嘲笑が浴びせかけられた。
大男は、長居は無用とばかりに玄関へ向かって顎をしゃくった。
「おら、そろそろ引き上げるぞ。」
そのあと大男は、メイリンを小脇に抱えるつもりで腹部へと手を回したが、その時何かに反応して腕を引きつらせた。大男は馴染みある感触に気づいてニヤリと笑みを浮かべると、今度はメイリンの肩をつかんで正面を向かせる。
すると、帯留めの宝石に気付いた大男の目が、強欲も剥き出しにきらめいた。
「こいつあ驚いた。思いがけないお恵みにありつけたもんだぜ。」
メイリンが親を偲んで大切にしているエメラルドグリーンの宝石に、垢と犯罪まみれの汚い手が伸びていく。
「それに触るなっ!」
カッとなったリューイは、ついに動いて勢い任せに突進した。
すると、どうだ。
握り拳を後ろへ引いた時の効率的な構え、その身ごなしは戦いのプロと言えるほどさまになっていて素早い。
そして破壊的な威力を持つ鉄拳が、大男の頬に遠慮なく叩き込まれた。




