変わった人?
昨日までは傷にしみるだろうからと、メイリンが体を拭いてやっていたが、今夜リューイは風呂に入ることができた。それは離れにある簡素な浴室で、浴槽は立派に湯を沸かす設備の整ったものだが、それはリューイ一人が入るのがやっとなほど小さかった。
リューイは少しぬるめの湯船に浸かりながら、一人いつまでも悩んでいた。昨日から記憶の断片が閃光のように不意によみがえることがあり、だが自分とのつながりは全く理解できずにいた。
リューイは天窓から見える、灰色の夜空に浮かぶ影のような雲に自分の心の暗雲を重ね、重苦しいため息をつきながら、湯を両手ですくい上げて顔にかけた。
やがて風呂から上がったリューイは、適当に体を拭いたあと、そのままデッキを渡って部屋に戻った。
ベッドに腰かけて彼のズボンの破れ目を縫い繕ってやっていたメイリンは、彼がついたてを横切って入ってくると、ハッと驚き、その服であわてて顔を覆った。
リューイが素っ裸のままで、髪を拭き拭き平然と戻ってきたからだ。メイリンがきちんと用意していた着替えを小脇にかかえて。
「なに?」
リューイは仁王立ちで、あっけらかんとして言った。
「なにって、なんで!?」
これは質問ではなく非難。上擦る声でそう言ったメイリンは、真っ赤になった顔を隠したままだ。
「なにが?」
「どうして着替えを持ってるの?」
「置いてあったから。」
どうして着替えて来ないの?と問えば少しは理解もできたかもしれなかったが、どうも冗談でないその返答には、メイリンは驚くを通り越して、しばらく声が出てこなかった。
「い、いいからじゃあ、これを着てみて。やっと全部直し終えたから。」
そう言うと、メイリンは下を向きながら荒っぽく腕を突き出して、ズボンを手渡した。
「ああ、ありがとう。すごいな、穴が綺麗に無くなってる。」
「それより、ねえ、もういい?」
「なにが?」
「ズボン、ちゃんと履いた?」
「ああ・・・なんで?ああ、うん、大丈夫だ、ちゃんと直ってるよ。」
メイリンはもう呆れ果てて、数秒、完全に固まってしまった。
「ねえ、あなた・・・ほんとに大丈夫?お医者様に診てもらう?」
「なんで?」
「だって何だか・・・変よ。」
「そうかな。何も思い出せない以外は、俺は別に悩んでなんてないけど。」
メイリンはまじまじと彼を見つめる。そして首をかしげた。
「・・・もともとそうなのかしら・・・変わった人。」




