芽生え ―― リューイの変化
数日もすれば、リューイのことは、村人たちのあいだでハンサムな好青年と噂になっていた。時にはメイリンの恋人だとか、婚約者と言われひやかされることもあった。そう思わせるほどに、二人は仲睦まじくいつでも寄り添っていたのである。
そうしてリューイは、メイリンと共にペルが引いてくれる馬車に乗り、一緒に村の外れにある彼女の仕事場へ通い、朝は共に川辺へ行き、共に散歩して、食べて寝て・・・二人は恋人というよりまさに家族、それも夫婦のように離れがたい関係になっていった。
さわやかな涼風が吹き抜ける、よく晴れわたった朝。そんな二人が、いつものように川で野菜や果物を洗ったり、ほとりの草地で森の動物に囲まれ はしゃいでいるのを、ギルとレッドは、離れた場所から息を潜めてそっとうかがっていた。苔むした大木の陰や茂みの後ろに隠れ、複雑な気持ちで・・・。レッドはほとほと参っていて特に気にはしなかったが、そんな様々な動物がたくさん集まっている様子は、ギルには、リューイのことと共に気にせずにはいられない異様な光景である。
「一体どういうわけで、あんなに森の動物が集まってるんだ ? 飼われてるのか。」
ギルがそう不思議がっている横で、レッドは大きなため息をついた。
「言葉以外は、何もかも忘れちまったってわけか・・・。」
レッドは二人に目を向けながら悲しげにそう呟いたが、ギルの方は、もはや割り切ったような声でこう言った。
「正確には、主に過去の出来事の全てを忘れた状態だ。あの様子なら、知能は恐らくもとのままだ。子供のように堂々と涙を見せるところは前からだしな。リューイのあの人格は、密林で師匠のじいさんとだけ暮らしていたために形成されたものだ。それらを全て忘れちまった真っ新な心から彼女と始めるなら、あいつが抱くことのなかった感情もすぐに芽生えるかもな。」
「暢気なこと言ってる場合か。それはそれで、とっても素敵なことだけどな、俺たちにはそれを見守っていられるだけの余裕はないんだぞ。」
レッドが呆れたように言うと、ギルはもう一度リューイに目をやった。そして、今は小石集めに励んでいる彼女の姿を、同じように川に浸かっておきながら突っ立ったまま、目でひたすら追っているリューイを見た。少し遠目ではあったが、その表情がどうであるかがギルにはよく分かった。明るく笑顔を向けるわけでもなく、心配そうに見守るでもない、胸に秘めた何か暖かい感情を物語るような顔。それに、ギルは思わず顔をほころばせた。
「けどレッド、見てみろよ。リューイのあの、彼女に向けている何とも言えん眼差しを。あいつのあんな切なそうな顔、見たことあるか?あらゆることに率直に反応して、子供のように泣くか、笑うか、怒るかだったろう。このままの方が、あいつは早く大人になれるだろうな。彼女があいつの新しい人格を作るんだ。あいつに足りなかった自制心や、そして・・・恋愛感情を。」
そんなことになったら困るというのに、つまり〝別れ〟をずいぶんと穏やかな顔で示唆するギルには呆れ果てて、レッドはまたがなりかけた。だがその前に、言われた通りにリューイを見てみれば、いつの間にかギルと同じ目になっていた自分に、レッドはしばらく気がつかなかった。




