表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第8章  初恋 〈 Ⅴ〉
289/587

健忘症(記憶喪失)



 見つかったはいいが、どうしたものか・・・と、悩みながら重い足取りで戻ったレッドを、たちまち仲間たちは不安そうに取り巻いた。その誰もが、今日こそはリューイが見つかるはずだと期待していたので、レッドが一人でとぼとぼと帰ってきた様子のおかしさには、すぐに気付くことができたのである。


 それでレッドは、うかない顔でさっそく事情を話すことになった。そして・・・聞き終えた時には、一様に難しい顔をそろえて沈黙した。


健忘症けんぼうしょうだな。」

 たちどころに判断したギルが、やがてため息をついて言った。


「ほんとに本人?」


 カイルがきくと、レッドはすぐにこう答えた。


「ああ、間違いない。あの時その彼女、混乱して狂いかけてたリューイを抱いて、無理しないでって言ったんだ。言葉づかいもすっかりおとなしくなってすきだらけだったし、まるで別人のようだったがな。声は確かにリューイのものだったよ。」


 レッドはほかにひっかかることがあったが、とりあえず仲間には伏せておいた。最も気になるのは、彼女の最後の言葉だ。ごめんなさい・・・。単に、訪問を拒否したことに対する謝罪だけではないようにも聞こえた。リューイの記憶が戻ることを、どこか恐れているような・・・あの様子。


 そして、レッドからその話を聞いただけで、ギルも同様、そのことに何となくかんづいていた。なぜなら、レッドの話には続きがなかった。本来なら、リューイの知り合いである者が現れれば、彼女はその者、つまりレッドを家に入れ、リューイの記憶が戻るよう、そこでいろいろと話をしているはずだからだ。そのあるべき部分を、レッドは少しも語らずに終えた。


 そして、カイルもまた医学にもとづきいろいろと黙考していた。


 レッドの報告から分かることといえば、外傷性脳損傷による逆向性健忘。過去の出来事を思い出せない記憶喪失。それも自分の名前も分からないとなると、恐らく全般性健忘。後遺症として残ってしまう恐れもある。が、何か回復するきっかけはないか・・・と考えてみると、一つ思いついた。リューイは武闘家。達人と言えるまでに鍛錬たんれんを積んだ体が覚えているはずの記憶は、無意識にも何かの拍子に現れるかもしれない。体が思い出してくれたら、その刺激で治るのではないかと。


 するとシャナイアが、「リューイ・・・その子のこと、困らせたりなんてしてないかしら。あの子ったら、私の前でも平気で素っ裸になっちゃうくらいだから心配だわ。」と母親のような口調でつぶやいた。

 

「・・・もう手遅れかもな。けど、頭打ったせいだと思うだろ。」と思わず想像してから、レッドも真面目まじめに答えた。


「とにかく軽度であることを願って、ひとまず様子を見守るほかないだろう。」


 それ――リューイが無邪気に露出狂を発症する恐れ――とは別に気になることもあるものの、そう言ってギルが話の整理をつけた。それに、そんなことをリューイがしでかしてくれたら、彼女の気持ちも一瞬で変わるかもしれない。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ