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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第8章  初恋 〈 Ⅴ〉
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行方不明 



 彼ら ―― ギル、レッド、カイル、シャナイア ―― は、川のほとりの洞窟を野宿の場所に決めて、二日間そこにいた。


 風にそよぐ木の葉越はごしに、赤い陽の光が消えていく。


 四人は今、焚き火であぶり焼きにした川魚を、森の近くの村で購入したパンと一緒にいただこうかというところ。だが・・・どちらも一人分(あま)っており、川魚はいい頃合ころあいに焼けているが、誰もが食事を始めるのをためらっていた。


 リューイがまだ戻らないからだ。夕べも今日も、待てど暮らせど帰ってこない・・・。


「二日目ともなると・・・。」

 レッドがまず言い出した。


「さすがにおかしいわね。」と、シャナイアも首をかしげる。


「迷ったのかな・・・なんて。」と、カイル。


「馬鹿な。キースなら見つけられるだろ。」

 魚の焼きあがった串を火元から遠ざけながら、ギルは、まずそうするのが当然のことのように言った。


 するとほかの三人は、不意を突かれたという顔を見合った。一斉にキースに注目する。そのリューイの森の相棒は、特に心配する様子もなく暢気のんきに寝そべっている。


「そうか、こいつを使えばいいのか。」


 レッドが名案といった具合に声をはずませたのを聞くと、ギルはやれやれと肩をすくった。






 早朝、レッドはキースを連れて相棒の捜索に出かけた。


 キースは地面に鼻をこすり付けるようにしながら、これほど容易たやすいことはないと言わんばかりに、順調に主人の匂いをたどっていく。


 そうしてレッドは、群落ぐんらく急峻きゅうしゅんな坂道を登っていった。ブナやカエデ、トチノキ・・・確かにここは、木から木へと飛び回るには格好の高木こうぼくが林立していて、いかにもリューイが好みそうな場所だ。そんなことを考えながらついて行くと、キースの軽快な足取りが、やがてある大木の根元でぴたりと止まった。そして、そんな予感を裏付けるかのように、キースはその木の周りをしきりに嗅ぎまわり始めたのである。さらには、太いみきに前足をかけたかと思うと、樹皮に爪痕つめあとがつくほどガリガリと掻きむしりだした。


 レッドは少し考えただけで、リューイがその木をよじ登ったのだと分かった。そうすると、この先は予想をつけて捜索しなければならない。レッドは視線を上げて、高い位置にある太い枝をよくよく観察してみた。着地や、踏みきる衝撃に耐えられそうな枝が向いている方向や、それらの距離間がどうであるかを。


 レッドは、リューイがどう飛び移っていったかを推測すいそくしながら、さらに足を進める。


 だがしばらく行くと、レッドは不吉なものを見て立ち止まり、顔をしかめた。木々の列が切れた場所に、見事にへし折れている太い枝がある・・・。不吉な・・・というのは、その下が空間に違いないからだ。その大樹は、断崖だんがいきわに生えているように見える。恐る恐る近づいてみれば、やはり、森を突き抜けてどこまでも続く大河や、遠くまで広がる平野が一望できた。


 レッドは、もう三歩も進めば自殺できそうな崖っぷちに立っていた。


うそだろ・・・。」


 一陣いちじんの風が吹いて、愕然がくぜんと立ちすくんでいるレッドの前髪を大きく掻きあげた。


 はじかれたように背中を返したレッドは、キースを連れて、がけの真下と思われる場所へあわてて向かった。


 そうして、ここだろうという少し広くなった空き地まで下りて来たレッド。気が気ではない思いで、とにかく周囲を見回した。すぐそばには切り立った崖がそびえ立ち、ふもとの斜面や草地を早くもキースがしきりにかぎ回っているので、場所はだいたい合っているはず。


 しかし、どこにもリューイの姿は見当たらない。


 本当に転落していたら、常識で考えれば生存確率はほぼゼロだろう。だが常識を超えているリューイなら、うまく受け身をとって助かったということも・・・。


 ほとんど祈るような気持ちでそうも考えたレッドが視線を真っ直ぐに上げてみれば、絶壁ぜっぺきから突き出している枝のようなものがいくつかある。そのどれもこれも人為的にポッキリと折られたような形をしている。あれにつかまりながら落ちてきたのか・・・?


 しばらく突っ立ったまま考えこんでいたレッドだったが、ふと気付いた。キースが今度は、何やら草の根に夢中になっているのである。


 レッドもそこへ行き、キースの鼻先の下に目を凝らした。


 すると、実際には完全な草地ではなく、地面から硬そうな岩肌ものぞいている。


 そう気付くと同時に、ハッと息をのみこんだ。


 血痕けっこんを見つけたからだ。岩肌に血の塊が付着している・・・。


 思わず絶望が脳裏をかすめた。とたんにレッドも落ち着いてはいられなくなってしまった。死体を発見した誰かに、どこかへ運ばれたのかと。レッドは怖くなって首を振った。いや、無事にとはいかなくても、生身なまみで救助されたということもじゅうぶんに有りうる。


 すると、キースがパッと顔を上げた。それから勝手に離れだして、森街道へ向かっている。そしてまた、地面に鼻先をこすりつけるような姿勢をとったのだ。


「おい、もしかして分かったのか?」 


 実際にキースがたどり始めたのは、はっきりとした主人の匂いではなかった。そこから嗅ぎ取ったほかの動物の強い匂いだ。


 だがとにかく姿を見たいと思うレッドは、すぐにあとを追った。









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