表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第8章  初恋 〈 Ⅴ〉
286/587

エメラルドの帯留め


 翌日の早朝、村の集落へと一人で出かけたメイリンは、知人に訳を話して、彼が着られるものを用意してもらうことができた。ただし間に合わせなので、何枚も余裕はない。


 それに着替えたリューイは、メイリンに連れられて、バルンの森の中にある小さな滝が流れ落ちる場所へとやってきた。


 到着するとさっそく、メイリンはスカートのすそを膝の上で結び、素足で川の中へ入って行った。滝壺たきつぼの近くは川底が深くえぐられているが、この場所を知り尽くしているメイリンにとっては、危険なことなど何もなかった。


 しきりに聞こえる小鳥のさえずりと、風に吹かれてざわめく葉擦はずれの音に、リューイは黙って耳を澄ます。やはりホッとする気持ちに浸りながら、リューイは川のほとりの斜面に腰を下ろして、メイリンがすることを見守った。


 そんなリューイの周りには、シマリスや野うさぎ、鹿などの森の動物たちが、なぜか警戒もせずに次々と集まってくる。それどころか、すぐかたわらまでやってきて体をり寄せたり、小動物などは膝の上に乗り上がってきたりと、さわって欲しそうにするのである。それら動物たちの行動に、リューイは何よりもまたなつかしさを覚えた。


 ねだられるままに、リューイはそれらの体を順番にでてやった。


「みんな私のお友達なの。」

 水中に向けていた顔を上げて、メイリンは言った。


人懐ひとなつっこいんだな。」


「あなたが気に入られたのよ。あなたはきっといい人ね。」


「そうなのかな・・・。」


 真面目まじめにそう答えた彼にくすりと笑い声を漏らして、メイリンはまた水中に目を向ける。


 日の光がさんさんと降り注いでいる澄んだ川面かわもは、まばゆいばかりにキラキラと輝いている。水深は膝まではいかなかったが、かがんだ時に、結び目から垂れているスカートの裾が水に浸かることもあった。メイリンは流れに逆らって うろつきながら、真剣そのものの眼差しで、清らかにみわたる水の中に目をらしている。


「この川には綺麗な色の小石が流れてくるのよ。これが私の仕事なの。私、もう慣れてて目がくのよ。加工次第では、ちょっとしたアクセサリーが作れるらしいの。でも、所詮しょせんはただの石ころだから、大したお金にはならないけれど。でも、村の人の仕事のお手伝いもしてるから、いい小石が見つからなくても、私たちが暮らしていくくらいなら、不自由しないわ。」


 メイリンは水の中に両手を突っ込んでそう言い、一つこれだという水色の小石をつまみ上げて、リューイを振り返った。


「俺もできることは手伝うよ。世話になるからな。村の人の仕事って何?」


「いろいろあるけど、家畜のお世話とか、畑仕事とか、それに、チーズやパン作り。とにかく、冬になるまで朝はここで小石を探して、午後からは村へ行くの。私の日課。」


 そう答えると、メイリンはまた水の中を探り始めた。


「俺もやっていい?宝探し。」


「ええ。でも、足もと気をつけてね。いきなり深くなってるところがあるから、私のそばからあまり離れないで。」


 腰を伸ばしたメイリンは、一度リューイがいる岸辺へと戻った。そして、いつも大事に身につけているものを外して、ほこらしげに見せた。


 それは、緻密ちみつに編み込まれた数本のひもで出来ている帯留おびどめ。宝石にしか見えない美しいエメラルドグリーンの飾りが付いている。


「ねえ、これ見て。これもこの川で見つけたのよ、ママがね。で、帯留めに加工したのはパパなの。」


「綺麗だな。そんなのが見つかるのか。」


「宝石みたいでしょ?これは天然石の中でも最高よ。これ以上のものは、なかなか見つからないわ。お金に換えれば高値で売れたでしょうけど、ママは宝石を一つも持っていなかったから、二人とも手放せなかったのね。だから、これが形見なの。ほかの安い家具はみんな売っちゃったけど、私もこれだけは手放せないわ。」


 リューイの見ている前で、メイリンはその帯留めを愛しげに抱きしめた。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ