孤独なメイリン
リューイは疲れてため息をつき、それからこの家の中を見回した。
暖炉と煙突は煉瓦造りで、そのほかは全体的に木でできているようだ。それなりに広さはあったがソファーも無く、なんとも殺風景な感じがする。平屋で、部屋を間仕切るための ついたて が置物のように隅にあったが、同じ部屋に台所と食堂と寝室が一緒になっている。
「あんた・・・いや、メイリンは、ここに一人で住んでるのか?ベッドも一つしかないみたいだし。」
「ええ。ニ年前に・・・親が二人共、事故で死んじゃったから・・・。ほかのベッドは、はじめお金に困って売っちゃったの・・・見てると悲しくなるし。ほかにもいろいろ・・・。」
メイリンは、瞳をかげらせてそう答えた。
「・・・ごめん。」
「気にしないで。もう一人の生活にも慣れたし、村の人たちもとてもよくしてくれるから・・・平気よ。」
メイリンは屈託なくほほ笑んだ・・・が、その表情が何か恥ずかしそうなものに変わっていき、そして、もじもじしながら小さな声でやっと言った。
「それより、あの・・・下・・・まだ何もしてないの。」
「下・・・?」
リューイは首を伸ばしてベッドの下、つまり床に目を向ける。
「汚れてるし、怪我してるでしょう?よかったら洗濯とか手当てとか、綻び直しとか・・・しておきたいんだけど・・・だから、その・・・ズボン・・・。」
「ああ、これか。」
すると、リューイは初めて会った年頃の娘さんの前でも平気でズボンを脱いで下着一枚になってしまい、それを「はいっ。」と言うように突き出して、にっこり笑った。
今日一番の赤面で、メイリンは横を向いたまま無言でズボンを受け取った。着替えがないことを伝える前に、彼はいきなり脱ぎだしてしまったのだから。しかも、できるなら自分で薬を塗ってもらおうと思っていたのに、そっと顔を戻してみれば、彼はどうも手当てを待っている様子。
リューイは、おどおどと指先を動かしている彼女に、そうして太腿の大きな傷と、それに背中の傷にも薬を塗ってもらった。最後に、ちょうど用意があった幅の広い包帯で押さえて完了。その種類がそろっていてなかなかに手際がいいのは、この森の動物たちは怪我をすると、ここを頼ってやってくるかららしい。
そのあと、メイリンが手早く調理した簡単な夕食を、二人は同じテーブルについて食べた。そのあいだ、メイリンは彼に、この森の動物や知人の話をし続けた。明るい表情と声で、彼を和ませようと一生懸命。
それから食事の片付けを終えたメイリンは、先に寝てくれるよう彼に言ってから、離れにある浴室へ向かった。
下着姿で包帯だらけのリューイは、言われた通りそのままベッドに入ることにしたが、そうして一人きりになるとまた悲しくなり、落ち着かず一向に眠ることができない。そして、こんなことになってしまった時に、そばに誰かがいてくれて、それが優しい人で本当によかったと、今になってしみじみと感じた。
リューイは、ドアに目を向けた。早く彼女が戻ってきてくれないかと。
物音ひとつしない部屋の中は寂し過ぎる・・・。リューイはベッドのすぐ横にある窓を開けた。すると、秋の虫やふくろうの声、それに夜風にあおられる木々の葉擦れの音がすーっと耳に入ってきて、心にまで沁みる。なぜか懐かしい気がして、目を閉じたリューイは、それらに奇妙なほど癒されながら聴き入った。




