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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第7章  ガザンベルクの妖術師 〈 Ⅳ〉
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三か月後に



「おお、そうじゃった。えー・・・。」


 テオは一つ咳払せきばらいをすると、旅立つ気まんまんでいる幼い少女に目を向ける。


「お嬢ちゃんにも残ってもらおうかの。」


 レッドはもちろん、ほかの仲間もみな唖然あぜんとなる。


 ミーア本人も、言われたことの意味がパッと呑み込めない様子。


「え・・・ええーっ!やだやだやだっ!絶対にやだっ!」


 ミーアは全身で全力の拒否。足をさかんに踏み鳴らし、駄々をこねだしてしまった。


「テオ殿、俺はミーアと離れるわけにはいかないんだ。」

 レッドもまた身を乗り出して、そう抗議こうぎした。


「待てよ、レッド。」ギルが、そんなレッドの肩をつかんで言った。「よく考えてもみろ。これまでのことを思うと、俺たちといるより遥かに安全だと思わないか。」


「先を急がねばならん。今、森の神がメルクローゼ公国におることは、ほぼ間違いないからの。」


 言われて見れば、そうかもしれない・・・とレッドは思い、ミーアを見つめた。ミーアも助けてくれと言わんばかりに見つめ返していたが、意外にも、レッドの方ではもう、エミリオに任せるとあっさり決心することができた。だが、これがエミリオ以外の、レッドも納得がいかないような程度の男なら、レッドこそ子供のように嫌だと言い張っているところだ。


 そんな横の騒々《そうぞう》しさを気にもせずに、このあいだ二人だけで向かい合って話をしている者がいる。


「リューイ・・・ありがとう。本当に・・・ごめんなさい。」


「あのさ、俺は約束守れてほっとしてんだから、謝るなよ。ほら、もう平気だしな。」


「あの、あのね・・・私・・・。」


 シーナはうつむいて、目じりを指でなぞった。それ以上は声にならなかった。


 その想いに気付かないまま、リューイは手を伸ばしてシーナを抱き寄せる。


「もう、何も心配いらねえから・・・。」


 シーナの方では、おかげでドキドキが止まらなくなってしまった。


 やがて、シーナは涙に濡れた瞳をゆっくりと上げていく。それを笑顔で待っていた彼のその目と、目が合った。


「さよなら、シーナ。」


 シーナも寂しそうにほほ笑み返した。


「さよなら・・・リューイ。」


 いつの間にか、この二人の様子をほかの者たちも黙って見守っていた。中でもシーナの恋心に自然と気付いたエミリオとギルは目を見合ったが、シャナイアもまた知っていた。なぜならこの数日間、シーナからリューイのことをやたらと質問されたからである。


「行こうか。」

 ギルがうながした。


「じゃあ、三か月後にレザンの町で。」

 カイルが言った。


 レッドはミーアのわきをかかえ上げて、ひょいとエミリオの隣へ。無理やりだ。


「ミーア、いい子にしてるんだぞ。」

「・・・やだ。」


 ミーアはすぐに駆け戻って、レッドの足にしがみつこうとする。それでレッドは、ミーアが観念するまで、あと三回そんなことを繰り返した。


「三か月なんて、すぐよ。」


 シャナイアがそう言ってにっこりほほ笑みかけ、エミリオもまた、「少しのあいだだけ、私ではダメかな。」と、すっかりねてただただ無言のミーアをそっと抱き上げた。


 ミーアは首を振ったが、エミリオの首にしがみついて、まだべそをかいている。


 リューイだけが、今頃になってその様子のおかしさに気付いた。


「あれ、ミーア・・・なんで?」


「居残り組。」

 ギルが教えてやった。


「え・・あ、そう・・・。」


 理由を聞いていなかったリューイは、それをなぜかと思いながらミーアに目を向けた。今にも泣き出しそうな不機嫌面ふきげんづらに。


 そうして一行は、グレーアム伯爵やその使用人、そしてテオとエミリオ、それから、ひどく悲しそうなミーアに手を振って背中を向けた。


「門まで私が送ろう。」


 急に思い立ったというわけでもなく、ロザリオは彼らと並んで歩きだした。立ち位置はリューイの隣。故意こいにだ。


「リューイ、ここへ戻ってくる気はないか。」

 いくらか思い切ったように、ロザリオは話しかけた。


「旅の最後に、また来ると思うけど。」


「いや、そういう意味ではなくて・・・この町はどうかな。」


「いい町だと思うよ。綺麗だし、食べ物も美味うまいし、これからはきっと平和だろうしな。」


「そうか。実はシーナのことなのだが・・・どう思う?」


「どうって・・・寂しがりやの泣き虫だな。けど、可愛いしいい子だ。」

 リューイは淡々とそう答えた。


 ロザリオは、ふっと笑った。


「一緒になる気はないか?いや、ぜひ。」


「無理だよ。」


「なぜ。」


「それって、シーナとずっと一緒に暮らしていくってことだよな。だったら、シーナは森に住めないだろ?俺はあそこしかダメなんだ。」


 ロザリオが首をひねる思いでいると、リューイは言った。 


「シーナも知ってるよ。」


 まだ少し肌寒く、霧がかかるもの寂しい朝だったが、最後にそう言ってほほ笑んだ彼の清々《すがすが》しい笑顔が、ロザリオに妹があわれだ・・・とは思わせなかった。今は悲しそうにしているが、やがて、この青年の笑顔のような清々《すがすが》しく晴れわたる青空がやってくるように、きっとシーナも元気を取り戻すのだろう・・・心配はいらないと、そう思わせる力のある笑顔だった。 


 ロザリオも、少し残念な気持ちを込めてほほ笑み返した。


 ちょうどその時、ロザリオは庭園の門の下に立っていた。







.・✽.・ E N D ・.✽・.











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