決心 ―― 術使いへと
足腰をも痛めたリューイがまともに歩けるようになるまで、一週間以上かかった。
その期間をぜひにと言われた一行は、手厚いもてなしを受けながらグレーアム伯爵の大邸宅で過ごした。シーナはそのあいだ、口では彼が退屈そうだからと言って、熱心にリューイが休んでいる部屋に通う毎日。二人は、その度に互いのことを語り合って楽しんだ。そんな妹の気持ちに気付いたロザリオは、ある考えに期待を抱きつつ見守っていた。
一方、エミリオとテオも話を進めていた。大陸の救世主たち、つまりアルタクティスについてや、呪術に関することなど。テオは、それらの話をエミリオに丁寧に語って聞かせ、それをエミリオも理解しようと真剣に傾聴したものの、やはり、まだまだ自覚を持つことはできずにいる。
そして、エミリオをはじめに、その仲間たちがこれからどうすればよいかを二人は相談し合った。
もうこの町の住人であり、ここに家庭があり待っている人もいるジャックは、事件が解決したその日のうちにはひとり自宅へ帰って行ったが、カイザーとスエヴィは次の日に去って行った。
そうして一週間以上が経ったこの日の朝早く、身支度を整えた一行と、見送る者たちとが軒先で向かい合っていた。
エミリオは見送る側で、イヴの姿は無い。この二人が残るというのは前もって聞かされていたことで、イヴはこの日、修道女としての務めがあるので来られなかった。イヴは神々の中心、つまりエミリオにつき従うようにと言いつけられているので、エミリオが残るということは彼女も残るということになるが、実際問題、彼女がまだ一緒に行けない理由は、修道女として関わっているものを他の者に分担して引き継いでもらわなければならず、その期間が必要だからである。
ただ、一行は一つだけ聞かされていないことがあった。それは、エミリオとテオが今朝まで決めかねていたことだからだ。
「ほんとに決心するとはな。」
ギルが言った。
「私にその能力があるなら、やってみようかと思ったんだ。」
「半ば嫌とは言えなかったんだろう?」
ギルは顔を寄せて、そっとエミリオの耳元でささやいた。
エミリオは苦笑いを返した。
正直なところ、成り行きに任せて身を委ねているうちにどんどん深入りしてしまい、カイルやテオの期待もあまりに大きくひしひしと伝わってくるので、自覚が無くとも拒むことなどできなかった・・・というのがおおよそ本音である。
ただ、少し前向きな気持ちにもなれたことも、話に乗った理由の一つだ。思えば、霊能力というものは、人を救える力にもなる。武器や言葉では、この力でなければ助けられないことがある。その可能性に気づき、自分はなぜ今生きているのかとふと考えた時、断れるはずもない・・・という衝動にかられたのだった。
その訳を、ギルに打ち明けることはまだできないが。
「けど、まあ・・・あんな力が使えるようになったら、案外楽しいかもしれないぜ。頑張れよ。」
黙ってほほ笑み返しただけのエミリオは、そのあとミーアと、そしてレッドのことも見た。二人は旅立つメンバーの中にいて、並んで立っている。ため息をついたエミリオは、テオの方へ屈みこんでおずおずと声をかけた。
「テオ殿・・・そろそろ言うべきでは。」と。




