表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第7章  ガザンベルクの妖術師 〈 Ⅳ〉
271/587

ダルレイの誤算


「最終的に、ヤツは恐らく多くの人間の命を救おうとするだろう。それによって、運がよければ伯爵にも助かる可能性がある。だがヤツが戻った時、まだ若く有望なその息子はすでに焼死体だ。」


 全てを見通した、自信に満ちたダルレイの声には、レッドは もはや怒りではなく恐怖を覚えた。呪いを解けば、ロザリオが死ぬ・・・そんな・・・わなのような呪いがあるのか。


「そんな呪いがあるのか・・・という顔をしているな。あるとも。〝 呪いの連鎖れんさ 〟だ。もっとも、黒い本の中にだけだが。妖術の書は、私が手に入れたもの以外にも、まだいくつか存在している。ヤツも恐らく読んだことはあるだろう。それを止める方法ならば、ほかの呪術にもある・・・が、これがそうだと、そんな葬られたはずの本に書かれていることに、ここへ来て気づくことができるかな。それを思い出すのは、祭壇さいだんを壊したあとだ。」


 ダルレイは、機嫌よく勝手なことをしゃべり続けている。だがそのにくらしい声も、今はレッドの頭に入ってはこなかった。


「そして、ヤツがグレーアム伯爵のもとへ戻った時、自分が何をしたか、はっきりと理解することになる。伯爵の息子を自分が殺したと知ったヤツは愕然がくぜんとし、手段をあやまったことを後悔こうかいして打ちひしがれるだろう。つまり、ヤツは初めて失敗する。結局、ヤツはどうしたって全てを救うことなどできない。何をとっても、ヤツは苦しむことになるのだ。己の無能さを呪いながら、悲惨な記憶に一生(さいな)まれ続けるがいい。死よりも辛いことになるぞ。ふ・・・ふふ・・・ふははは。」


 レッドは途方に暮れた。どうしたらいいのか分からず、今更いまさらこのことをカイルに教えに走ることもできない。自分たちよりも先に行ったのだ。きっと、もう・・・遅い。


「そこを空けろ。間もなくあわててここへ来るヤツに、最後にひとこと教えてやらねばならん。どんな顔をするか見ものだ。そして、お前はここで死ぬ。今度こそな。私が呼べば、たちどころにしもべが現れて、お前など呆気なく食われるだろう。父親と同じように、化け物と戦って死ぬがいい。」


「こいつ・・・。」

 レッドは再び剣のつかを握り締めた。


「私の勝ちだ。」


 その時、不意にレッドの背後で声がした。


「どうかな。」


 ギルだった。

 後ろにはカイルもいる。


「あなたは一人だ。気の毒だが。」と、ギルは言った。


「なんだと。」


「呪いは、たった今解いた。」


「・・・ふ・・・ふふ・・・やはりそうきたか。当然だろう。今頃、伯爵の屋敷では面白いことが起こって ―― 。」


 不意に、ダルレイが言葉を切った。ギルの顔から視線を外して、目をらすような表情をしている。そして・・・


「ヤツはどこだ・・・。」


 と、ひどく動揺しながらつぶやいた。


「まさか・・・。」


 ギルは顔をしかめた。

「何を言ってる。」


「ギル、大変だ! ロザリオに呪いが向けられ ―― ⁉」 


 レッドがそう叫んでギルの顔を見た時、ギルが目を大きくしてビクッと一歩下がった。


 その目の向くところを、レッドも反射的に振り返って見た。


 すると同時に、すさまじい悲鳴が・・・!


「うああっ・・・!」


 何がどうしたのか、ダルレイの腕やら足から炎が出火しているのである。それはまたたく間にメラメラと燃え上がり、見る間にダルレイの体をみ込んでしまった。


「ううっ・・・くそっ、ぐあっああっ・・・!」


 ダルレイは両膝を折って倒れこんだ。


 カイルもカイザーも、その姿をおののいて見つめている。


 火だるまとなったダルレイは狂おしくもがき、滅茶苦茶にのた打ち回ったあと、驚いたことには、焼けただれていく手を必死に伸ばして立ち上がった。ふらつきながら窓縁まどべりにつかみかかり、そして、開いた窓から身を乗り出したのである。


 しかし、その下に助かるようなものは何もない。中庭の外壁がいへき沿いには、細い枝をしげらせている低木が並んでいるだけだ。そもそも、この超自然の火は普通には消せないと、ダルレイも知っている。 


 やがて紅蓮ぐれんの炎のかたまりと化したダルレイは、夜よりも暗く冷たい、漆黒しっこく奈落ならくへと転がり落ちていった。











評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ