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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第7章  ガザンベルクの妖術師 〈 Ⅳ〉
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因縁 ― よみがえる悪夢


 ついにその部屋にたどり着いたレッドは、荒々しくドアを蹴破けやぶった。


 落ち着き払った男が一人、窓辺に立っていた。病的な顔色の五十代(なか)ばほどの男。その男は不適にほほ笑んで、穏やかでない訪問者二人を堂々と迎えた。


「私を捕まえに来たか。伯爵家の犬ども。」


 男はいかにもという様子で、そう言ってきた。


 ところが、レッドは愕然がくぜんとした。その男の顔を見るなり、とてつもない怒りがこみあげ目がくらんだ。あまりに突然のことで、声も出なかった。動機がおかしくなり血がサッと逆上して、レッドは気が狂わないよう耐えしのぶのがやっとだった。


 その男の顔・・・違いない・・・もとガザンベルク帝国の総督、ダルレイ〈ダルレイ・カーネル・サルマン〉。ダグラス将軍(※1)がそう呼びすてていた男の顔と名前をしっかりと脳裏に焼き付け、心の中で来る日も来る日も呪うように罵倒ばとうし、悪態あくたいをつき続けた。


 いつか・・・いつか、きっと殺してやる・・・。


子供の頃、レッドは本気でその男を見つけ出し、地の果てまでも追いかけるつもりでいたのだ。


 だが、ライデルやその仲間と過ごす中で、いつしか前向きに生きられるようになった。


 なのに、どんな運命の悪戯いたずらか、今その悪魔がすぐ目の前にいるのである。


 カイザーはレッドのこの異様な様子に、眉をひそめてじっと見ていた。ついに諸悪の根源をらしめられるというのに、レッドは相手をものすご形相ぎょうそうにらみつけたまま固まっている・・・。


 一方、ダルレイの方では、威勢良くやってきたはいいが、いざという時になってすくみあがってしまった、ただの情けのない姿にしか見えなかった。


「どうした、お前。私に恐れをなしたか。」


「父さんや母さんを、化け物に食らわせたのか。」

 低く険しい声で、唐突とうとつにレッドはきいた。


「なんだと・・・。」ダルレイはまじまじとレッドを見て、顔をしかめる。「きさま、どこかで見たような面だな。」


「見たようなだと?救いようがねえな。町一つをゴミのように焼き払ったことも、ろくに覚えてねえとはな。」


 ダルレイの面上に、一瞬、驚きがよぎった。


「そうか思い出したぞ、あの時のガキか。なぜ生きている。始末したはずだ(※2)。」


「ダグラス将軍に聞きな(※2)。」


 その名前を聞いたとたん、ダルレイはむしずが走る思いであからさまに渋面を浮かべた。

「あいつか。どこまでも忌々《いまいま》しい男だ。」


「奴隷たちを食らわせたのか。」


 ダルレイは冷ややかな眼差しで、うとましそうにレッドの切れ長の瞳をにらんだ。


「相変わらず気に食わぬ目だ。」


「答えろよ。」


「ああ、食らわせたさ。目障めざわりだったんでな。私には必要のない奴らだ。」


 顔色ひとつ変えずに、ダルレイはそう言ってのけた。

 すさまじい憎悪が胸に殺到して、レッドは身を震わせる。


「ふ・・・冥土めいどの土産に何でも答えてやるぞ。」


 レッドははらわたが煮えくり返る思いだったが、必死で冷静になった。くやしいが、確かに知りたいことがいくつかあったからだ。


「妖術ってのは大陸中で禁じられている犯罪行為と承知のはずだ。そんなものに手を染めて何をたくらんでた。」

 レッドはうなるようにきいた。


「教えてやろう。私は霊能力というものをもつ者たちがうらやましかった。だが私は、その妖術によって相当の力を得ることができた。そして皇族を私の下に置き、皇帝を利用してガザンベルク帝国を我がものにするつもりだった。ガザンベルクはノース(エドリース)では昔から強い勢力をほこっているからな。だがジェラールめ、厄介やっかいなヤツを連れて戻ってきおった。あの神精術師だ。ヤツの仕業しわざによって祭壇を破壊され、私が苦労して築き上げた力や計画を、ほんの一瞬で台無しにしてくれよった。そのあと、この町へ命からがらたどり着くまでの地獄のような日々。奴がにくくてたまらんかった。しかし、こうして復讐の機会に恵まれるとは、ついていた。自分の方からののこやってくるとは、愚かなヤツだ。」


「もういい!」


 レッドは聞くに堪えられなくなり、感情を剥き出しにして怒鳴っていた。


「何が地獄だ、ただの自分勝手な妄想が招いた当然の報いだろう!てめえに見せられた俺たちの地獄は、そんなもんじゃねえぞっ。」


 だがダルレイは饒舌じょうぜつになった。

「私は、ヤツがこの町に来たと知ってから一年以上かけて、この日の為だけに血を溜めてきたのだ。呪いの術に磨きをかけ、より特異な魔物を作り上げる研究にも精を注いだ。しかし光に強い魔物を作ろうとして、試しに白昼の街に二度連れて行った時には、どちらも気が狂いおって勝手に暴走しおったがな。」


「てめえ、そんなことでリューイを・・・。」


「全ては、ヤツに無力感と敗北感を味わわせてやるためだ。奴は恐らく失敗を知らないだろう。人々に頼られ、神のようにあがめられていい気になっている。無力に終わった日には、その記憶が一生ヤツを苦しめてくれることだろう。今夜、あの屋敷に何が起こると思う。」


 レッドは眉間みけんにきつく皺を寄せたまま、ひたすらダルレイをねめつけている。


「ヤツを見つけてからというもの、さらに呪いを学んだ私は、様々な方法を覚えたのだ。あの男、グレーアム伯爵の呪い・・・それを止めるには、祭壇を壊しに来ねばならん。そして魔物どもを止めるにも、やはり祭壇を壊さねばならん。伯爵の呪いは呪術でおさえることはできようが、その間に魔物どもは襲撃をしかけ、それを止めに祭壇を壊しに来れば、その間に伯爵は死ぬぞ。ヤツはどうしている。もう一人の医者、巡回じゅんかい診療ばかりしているあの孫の小僧に、この妖術に対抗できるだけの力はないだろう。さあ、どうする。私を殺すか?殺してどうなる。それとも、お前に呪いが解けるか?解決策を練っている間に、あの屋敷は阿鼻叫喚の地獄と化すぞ。あの日のようにな・・・ふ・・・ふはは・・・。」


「いかれてやがる・・・。」


 レッドは、ついに剣を構えた。


「それでも殺してやりたいが、捕えろとの命令だ。観念する気がないなら、腕ずくで抵抗できないようにしてやるぞ。」


 しかしダルレイの次の言葉が、レッドにそれ以上をさせなかった。


「おい、せっかく答えてやっているんだ。もう少し話を聞け。もう一つお楽しみがあるというのに。もし、ヤツがグレーアム伯爵を見捨てて祭壇を壊しに来れば、その息子のルーヴェン子爵(※3)も死ぬぞ。炎に包まれてな。」






(※1)ダグラス将軍 = ジェラール・ダグラス・リストリデン / リストリデン侯爵


(※3)ルーヴェン子爵 = ロザリオ・ルーヴェン・グレーアム


(※2) 参照:『アルタクティスZERO / 外伝 1 天命の瞳の少年 第1部  』 一

 「3.処刑命令 」 「4.ガザンベルクの騎兵軍大将」








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