シーナがいない・・・!
会場に集まった者はみな、すでに一階の窓ガラスがいくつか破られる音を聞いていた。使用人の女性は周りに目を向けられる余裕もなく、誰もかれもが怯えきった様子で身を寄せ合っている。
そんな中、室内を速足でうろついていたリューイが、あわててロザリオのもとに駆けてくるなり言った。
「ロザリオ、シーナは・・・?」
そう、リューイはシーナを探し回っていたのである。
ロザリオはハッとして、部屋じゅうに視線を走らせた。大勢が集まったこの室内に・・・確かに、妹の姿が見当たらない・・・。
「シーナ、シーナがいない!」
室内に衝撃と緊張が走った。
誰もが、この中のどこかに当然いるものと思い、気にもしなかったが、言われてみれば・・・何たることか、どこにもいないではないか!
「シーナは⁉」
ロザリオは世話役の娘に駆け寄って怒鳴った。
「お嬢様はお部屋にいらっしゃいませんでしたので、先にご避難されたとばかり・・・も、申し訳・・・。」
その娘は両手で口を押さえ、うずくまってしまった。
侍女は数名いる。ほかの者が先に誘導したのだと、勝手に思い込んだらしい。そして、ほかの侍女もみな。ロザリオは思わずその娘を咎めそうになったが、この恐怖と混乱の中にあっては、念のため探しに行くなどできなかったのも当然だろうと思い、口を閉じた。それに、彼女を責めたところで、どうなるものでもない。
とその時、この会場の出入口へいきなり駆け出した者が一人。
リューイだ。
すかさずキースも付いて行く。
「リューイ!」
「ルーヴェン卿、行ってはいけない!」エミリオがあわてて引き止めた。「彼に任せて。」
その従わざるを得ない声に、とっさに付いて行こうとしたロザリオも我に返った。そうだ、無力な自分が行けば、さらに問題を増やすだけだ。
「なんてことだ。シーナ、どうか無事でいてくれ。」
「信じましょう、彼を。それに、私たちにも義務が・・・。」
そう言われて、ロザリオは無理に冷静を取り戻した。
「ああ・・・みなを守らねば、済まない。」
「いえ、私も同じ気持ちです。」
事実、エミリオ自身、すぐにでも追いかけて援護したかった。リューイは片腕を思うように使えないのである。しかし、ここにいる警備の者など戦える男たちは、初めて目にする常識外れの敵に対して、果たして驚きあわてることなく力を発揮できるだろうか・・・いや・・・。
そう考えると、やはり、この場を離れるわけにはいかなかった。




