ひょっとして・・・
「地下室、地下室・・・。」
呪いの邪気に誘われて、カイルは下へ降りられる階段を探していた。
魔物はときどき現れるが、幸運にも単独か少数で、ギルは不意に出くわすそれらだけを相手にすればよく、しかも剣を一閃させるだけで済む手応えのないものばかり。
そうするとギルは、少し前から疑問に思う余裕ができた。そもそも、それは以前にも感じたことであり、それが今回、確信に変わったのである。
今なら問うてみることができそうだ。
「とりこみ中済まないが、一つきいてもいいか。」
「なに?」
「ひょっとして・・・リサでの一件(※1)は、あの石碑の呪いを真っ先に解けば、済む話だったんじゃないか?」
カイルがつんのめって、ピタッと立ち止まった。
ギルもその数歩先で足を止めた。怪訝そうに眉根を寄せて。
「なな、なんで⁉」
「なんでって、俺たちが今やろうとしていることで事足りるなら、そういうことになるだろう。違うか? 」
「・・・そうです。」
肩をすくめて、カイルはおずおずと答えた。
ギルは呆気にとられて、しばらく言葉が出てこなかった。
「いったい、どういうわけで あんなことになった(※1)。」
長いため息をついてからギルがそう問うと、カイルは急に肩を落として、素直に答え始めた。
「僕はあの時、どっちもやらないといけないと思い込んでしまったんだ。呪いの浄化と、魔物退治の両方を、それぞれ。それでも、浄化を先にする予定だったんだけど、予想外のことが起こって、あれらが術空間を破って出てきちゃったから(※1)・・・つい、やっつけるのに夢中になって・・・結局、呪いを解くのが後回しになった・・・。浄化が成功すれば・・・同時に魔物も消えていなくなるなんて。」
「つまり、お前がやらかした失敗は、結局のところ、わざわざ難しく考えちまったことか?経験不足から。」
「・・・も一つ言うと、魔物の姿がなるべく見えないようにしたこと。そのせいで僕が呼んだ闇が暴走して、結果的にあんな手に負えない事態に・・・(※1)。」
それは恐らく、防壁を作っていた自分たち、さらには、見物していた村人たちへの配慮だったのだろうと、ギルにも察することはできた。それに考えは間違っていたが、手順としては合っていた。事故が起こったのは不運だったとも言える。が、あの時正しい知識があったなら、もっと上手くすることが、負傷者も出さずに済んだかもしれない。さらには、最初に自分たちが味わった恐怖も無意味だったのか・・・?
「お前・・・あいつらに知られたら殺されるぞ。」
「絶対、言わないで!」
「だが、それなら、ニルスでのあの怪物はどうするつもりだったんだ? きりもなく湧いて出てきてたんだぞ。どうしたら、あの館や地下迷路の洞窟じゅうから、全部しぼり出して皆殺しにできる(※2)。」
「あの時はやるしかなかったし、考えてる余裕も無かったから、とにかく元凶をやっつけて、ほかのことはそれから考えようと・・・余計なことは考えないようにしてたんだ・・・。」
「なるほど、賢明だな。」
ギルは呆れたため息をついた。
カイルは、ひどく肩を落としていた。
リサの村での失敗が、この少年にとって痛烈な心の痛手となったことは、ギルにも悟ることはできている。あの日から(※1)。
「これで、お前は俺の言いなりだな。」
「ええっ⁉」
「冗談だ。開き直っていいぞ。お前はよくやってた。」
カイルの背中をたたいて、ギルは「急ごう。」と促した。
※1 『第5章 シオンの森の少女』― 「途切れた呪力~」
※2 『第6章 白亜の街の悲話』 ― 「妖魔の棲み処」




