表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第7章  ガザンベルクの妖術師 〈 Ⅳ〉
264/587

カイザー


 中は、ひどい有様ありさまだった。それなりに立派な大富豪らしい邸宅だが、魔物が気儘きままに行き来したと思われる開いたままのドアがところどころに見られ、部屋や廊下に踏み倒された調度品が無造作むぞうさに転がっている。それに、カーテンが無残に噛みちぎられているのは最も不気味で、明かりが無ければもはや幽霊屋敷と変わらなかった。


 その中を、最初は闇雲やみくもに走っていたレッド。だが中庭に面した回廊に気付いた時、不意に立ち止まった。かんが働き、中庭へ飛び出して視線を上げると・・・。


 窓越まどごしに、一人の男の影。


「いた・・・。」

 レッドは、カイザーをうながしてすぐさまその部屋へ向かった。


 あれからというもの、運よく化け物に出くわすこともほとんど無い。


 するとカイザーは、こんな時に話していいものかどうかと迷った。実は、一つ、レッドに伝えたいことがあったのだ。だが、互いに剣を握りしめて戦っているこの状況なら話しやすいとも考え、思いきって口を開いた。


「レッド・・・俺は、前にも一度会っているんだが・・・覚えていないだろうな。」と。


「え・・・。」

 レッドは驚いたようにカイザーを見た。


「正確には三度目だ。二度目は以前、この町でたまたま見かけただけだった(※1)。二年前のベルギリアとの戦なら覚えているか。ベルギリアの部隊を率いていた男が、俺だ。」


「あんた・・・。」


 レッドの脳裏のうりに、過去の血生臭ちなまぐさい記憶がよみがえった。そこでレッドは隊長として、同じく敵の司令塔である男と、互いの戦力がぶつかり合う混戦の中、誰にも手出しのできない一対一の勝負をした。苦戦を強いられた戦だった。すっかり雰囲気が変わっていたので気付かなかったが、その男の腕と手強さには忘れられないものがあり、今でもその感覚は体の方がよく覚えている。


「傷はよくなったか。」と、レッドはきいた。


「覚えていたか。」


「たった二年前のことだ。忘れやしないさ、強い男のことは。けど殺したと思ってた。」


「俺は人一倍しぶとくて運がいいんでね。実は今、けっこう気に入ってるしな、この傷痕きずあと。生き恥にもとれるだろうが、数々の死闘を潜り抜けてきた戦士のあかしとも言えるだろ。こういうのがあった方が貫禄かんろくでないか?」


「ふ・・・へんなヤツ。」


「おかげで・・・あれから強くなったぞ。」


「あの国の者じゃなかったのか。」


「俺も傭兵ようへいだ。だが、あの国は負けて良かった。金のために働いたが、エドリースの国の多くは気違きちがいじみている。その中で、ロザナリアのような いくつかの秩序ある良識な国は気の毒だ。」


「俺もそう思う。」


 二人の心に、過去のわだかまりや悪感情あくかんじょうは全く無かった。互いに任務をまっとうしようと、よく戦った。だからむしろ、今となってはさっぱりした気持ちで二人は精悍せいかんな笑みを交わした。




 ※1 『外伝2 ミナルシア神殿の修道女』 ― 「二刀流の鷲」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ