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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第7章  ガザンベルクの妖術師 〈 Ⅳ〉
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妖魔の襲撃



 夜がおとずれる前に、ひたひたと闇はやってきた。たなびく黒い霧の中に、無数の赤い光がうごめいている。どれもこれも、殺戮さつりくの機会をうかがう血に飢えた魔物の目だ。それらに取り囲まれた屋敷に逃げ場はない。魔物の群れは今夜こそは餌にありつけると思い、固く閉じられた扉や窓を、どう破ってやろうかと思案しながらうろついている。草木までおびえて息をひそめるように そよ ともせず、そこから聞こえてくる魔物のうめき声で、館内はいっきに張り詰めた恐怖と緊張感に包まれた。


 どれだけ無事でいられるかは、もはや時間との戦い。 


「ロザリオ様、例のケダモノが次々と集まっています!」

 庭園にいた警備員が駆け込んできた。


 その報告を受ける前にはもう、ロザリオは二階の窓から下を見つめて立っていた。

「向こうから来たか・・・。すぐに屋敷にいる者を会場へ。これより作戦を開始する。」


 そう命令したロザリオ自身も、避難場所に指定したその場所へ向かった。


 一方、すでにこの屋敷で待機していたスエヴィとジャック、それにギルとレッド、カイザー、そしてカイルもただちに動いた。彼ら戦力となる者たちは、魔物を中へ入れないように、二階から縄梯子なわばしごを途中まで下ろしてそっと外へ出たが、気配はすぐにかぎつけられた。大きないのししのような体に赤い目をした獣が、建物のかげ生垣いけがきの後ろから何頭も近づいてくる。スエヴィとジャックは、その見たこともない奇っ怪な姿に仰天ぎょうてんして、対面するなり危うく最初の一撃をかわしそこねるところだった。


 そこを突破するのは容易よういではなかった。身構え直すひますらなく、たちまち過酷な襲撃がしかけられる。だが呪いを解くために、カイルを守るフォーメーションを組んだ彼らは、ひっきりなしに襲ってくるそれらを押しのけ、ひたすら叩き斬りながら、この恐怖を終わらせることのできる場所へ向かって走った。


 先頭はギルとレッドが務めた。二人は絶妙な無言の連携攻撃で、確実に突破口を切り開いていく。


 ギルの戦いぶりに、スエヴィとジャックの二人は内心大きな衝撃を受けていた。そちらも見ずにわきからの攻撃をかわし、刃広の大剣を両手で、片手で自在に操ることができ、瞬く間に白刃はくじん稲妻いなづまを打ち下ろす。その抜群の戦闘能力には鳥肌が立つほど。その姿にはレッドを知った時と同じ衝撃が走った。感動している場合ではないのに、思わず目を奪われてしまう。


 屋敷に残っているほかの者たちは、全員収容することのできる最上階の大宴会場へ避難していた。特に一階の玄関と裏口、そして窓は前もって頑丈に補強してある。会場には、すでにドレイクの為の寝台も運び込まれていた。忘れてはならないのが、血の臭いをすぐにかぎつけられないようにすること。そのために、会場だけでなくほかの部屋にも特殊な香がかれた。


 ドレイクの容体は、この時から急変した。もうほとんど土気色つちけいろとなった顔に、じっとりと脂汗あぶらあせがにじんでいる。何度も苦しそうに胸をつかんでうめいたりもした。放置すれば、あと数十分の命。当然、対抗する。そのために、テオも一心不乱に念を凝らし続けている。外で上がる物音の、何にも動じず。こうして呪いの重圧を押し返し続けるのである。孫のカイルが呪いを解くまで、何としても持ちこたえさせなければならなかった。


 その頃シーナは、このさわぎに気付いてはいなかった。シーナはこの時、別棟べつむね書斎しょさいの奥にいた。机の上で組んだ両手に頬をつけ、開きっぱなしの本の前ですやすやと寝息を漏らしていた。









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