白昼の怪、再び
そして見えた、やはりという姿・・・!
リューイが身構える間もなく、路地裏からそれは刹那に飛び出してきた。
案の定、あの得体の知れない恐ろしい怪物だ。
悲鳴がそこらじゅうに響いて、辺りが騒然となった時には、リューイはほとんど勢い任せのような形で、またもその猛進を真っ向から受け止めていた。すぐ背後では、さっきの男が尻餅をついて腰を抜かしている。
「逃げろ、早く逃げろ!」
リューイは必死で後ろの男に警告した。
だが男は驚きと恐怖で手足に力が入らず動くことができない。
「リューイ!」
レッドがすぐさま剣を閃かせたが、間に合わなかった。
上手くつかみきれていないせいで手が滑った次の瞬間、負傷している左肩に、そいつの口がサッと下りてきたのだ。
「ぐああっ・・・!」
リューイは堪らずのたうち回り地面を転がった。
謎の怪物は一度斬りつけられただけでは怯みもしない。弱って無防備でいる獲物めがけて、それはまた身を躍らせた。だが、いち早く攻撃態勢に入っていたレッドが、もう一度、今度は深く剣を突き刺す。それが上手く急所を貫き、間一髪でリューイの命を救った。
そばで腰を抜かしている男は悲鳴を上げ、もがくように手足を動かしながらやっと逃げ出していった。
そのあと・・・広場は妙に静まり返った。
リューイとレッド以外は誰も、今の状況に気持ちがついていけない様子で固まっている。しばらくして、何が起こったのかを確かめようと、人々がみな騒ぎの中心に目を向けだした。
襲われて辛そうに背中を起こした金髪青年のそばには、剣を握りしめて立っている屈強そうな戦士がいる。気付けば、恐ろしいあの奇妙な怪物は、地面に横たわったままピクリとも動かない。その胴体の下には血だまりのようなものができている。というのは、それは血の赤色をしていない。怪物を突き刺したと思われる剣身の大部分は、黒く濡れていた。
レッドとリューイにとっては、これも予想通りだ。
やがて、周囲にいる、ようやく状況を理解した者が一人、また一人とそっと寄ってきて、人垣を築いた。そしてリューイとレッドは、心配そうに見つめてくる人々に取り巻かれた。リューイは今回、傍目にも明らかなひどい傷を負ってしまった。その傷口は、炉の中から取り出したばかりの赤々と焼けた刃物で抉られたようになっている。首をまわして自分の傷の具合を知ったリューイはみるみる顔色が悪くなり、顔をしかめて苦しそうに息をしている。
不意に、レッドはカイルの言葉を思い出した。
その人はあの場所にいたんだと思う。
レッドは急いで辺りを見回し、群衆の陰に鋭い視線を走らせる。
「くそ、せっかく治りかけてたのに・・・。」
背後から、そうつぶやいたリューイの弱々しい声が聞こえた。
レッドは振り返ってリューイを見た。そうだ、今はそれどころではない。
「お前、そっちの腕はもう使えないぞ。急いで戻ろう。」
リューイは舌打ちした。左腕が動かない。不安そうに怯えているシーナの顔が目に浮かんだ。守るって約束したのに・・・。
その後、応急手当てを受けるよう何人もに声をかけられたが、二人は遠慮してすぐにその場を離れた。
一刻も早く手を打たないと、街がとんでもないことになる・・・。
やがて屋敷に帰り着いた二人は、召使いたちが声をかける間もなくわきを通り過ぎて、大慌てで寝室へと戻ってきた。
そこにいて迎えたのは、今はエミリオだけである。ほかの者の姿はなかった。
「カイルは戻ったか ⁉」
荒々しくドアを押し開けるなり、レッドがわめいた。
「ああ、今、薬を作ってるよ。」
何事かと思い、振り向きながら答えたエミリオの目に、激痛をこらえているリューイの姿が映った。さすがにエミリオも仰天した。露出したままの傷口には、真っ先に目がいった。今度の焼けただれたような傷は大きく、それが赤黒い血で光っているのである。
「リューイ、なんてことに・・・!」
「またヤツにやられた。」
「とにかく、カイルを呼んでこよう。」
エミリオは急いで部屋を出て行った。
リューイは、よろよろと歩いてドアの横に力無く座り込んだ。それから壁にもたれて目を閉じ、肩で息をし始める。レッドが気使ってかけてくる言葉に、うなずき返すこともできなかった。




