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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第7章  ガザンベルクの妖術師 〈 Ⅳ〉
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レッドの故郷 



「エドリースの北では、ガザンベルク帝国が最も勢力を広げているそうだけど。」


 シャナイアのこの言葉は、レッドの心を鋭く刺した。そのせいで幼い頃の深い悲しみと地獄を思い出したが、同時に、その国では閣下や将軍と呼ばれていた男の顔が頭に浮かんだ。


 レッドの波乱万丈なこれまでの人生の中で、重要な人物は三人いる。


 そう、彼が最初だった。


 彼に命を救われたことから始まり、盗賊のかしらのライデルに育てられ、アイアスの戦士テリーに生きる術を教わった。そうして今、ここにレドリー・カーフェイという男は存在している。(※2)


「あのさ・・・そのガザンベルク帝国で数年前に起こった、おじいさんからさっき聞いた裏話なんだけど・・・。」


 カイルのこの声に、ちょうどそれに関わる少年時代に意識が向いていたレッドは引き戻された。


 カイルは祖父から聞いた昔話―― そう遠い過去ではない恐ろしい実話 ――を話そうとしていた。これまでのことを振り返り、自分たちが遭遇そうぐうしてきた、そしてこの先も戦うことになるかもしれないそれらが、以前から存在するということを。そういった世界のことを知ってもらおうと思った。


 注目の中、カイルは真剣な顔で言葉を続ける。かつて、ガザンベルク帝国が、敗戦国のネヴィルスラム王国からサガの町の住人たちを奴隷として奪ったこと。だがやがて、徴兵ちょうへい命令がくだったために彼らは蜂起ほうきし、それを妖魔なるものが鎮圧ちんあつしたこと。そして、それらを操っていた人物のことを・・・・その時。


「待て・・・。」


 ひどく聞き取り難い・・・声、がした。

 

「その話・・・確かか。」


 重くて低い・・・やはり弱々しい声。誰が口にしたのかも分かった。カイルはそちらへ首を向ける。


 レッドは、動揺して思わず落とした視線を上げた。カイルに目を向け直し、それからこみあげるものを無理に押し殺して、今度は確かな口調できく。


「反乱とか・・・食い殺されたって・・・本当か。」


 本人は気づいているのか、周りにいる者が怖くなるほど険しくなったその表情に、カイルも思わずたじろいだ。


「え・・・うん、そのあと解決におじいさんが・・・あ・・・。」


 気付いた時には遅かった。 思い出したのだ。ニルスで、レッドが戦争に親を奪われたと話していたのを (※3)。


 カイルは、同じように気付いたギルと目を見合う。


 これに続く重い沈黙の中・・・。


 レドリー・カーフェイ・・・子供の頃、毎晩 つかの間に消えせる思い出ばかりを追っていたレッド。だが今となっては、成長して現実的に考えられるようになり、もうこのまま二度と会えないとしても構わないと、そう思えるようになっていた。敗戦し奴隷として連れていかれた以上、労働を強いられるのは仕方ない。そう割り切れるようになったのは、のちに、ガザンベルク帝国は非人道的な国ではないと知ったからだ。実際、その国にいて清廉で高潔な権力者に会っている。父と母、二人でそれなりに人間らしい暮らしができていれば、それでいいと。


 なのに・・・。


 レッドは、とたんに愕然がくぜんとなったまま、呆然としていた。そして一瞬、脳裏のうりに恐ろしい場面がかすめ過ぎるのを見て、血の気がひいた。


 異様に青ざめたそんなレッドの顔を、誰もが何も言えずにただうかがっていた。レッドのたくましい腕が引き攣っているのは、傍目にも明らかだ。 


「そうか、お前・・・。」 

 やがて恐る恐る声をかけて、ギルはそっとレッドの肩に手を置いた。


 レッドはのろのろとギルを見た。蒼白そうはくな顔で言葉を忘れたかのようだったが、それから深く息を吸い込むと、うなずいて告げた。


「俺の故郷は、ノース・エドリースのネヴィルスラム。俺は・・・サガの出身だ。」






 ※ 1 参照 : 外伝『運命のヘルクトロイ』 ― 14.瓦礫の街 / 15.戦争という名の悪魔

 ※ 2 参照 : 外伝『天命の瞳の少年』 ― 第1部

 ※ 3 参照 : 第6章『白亜の街の悲話』 ― 63.戦いを終えて







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