気まずい再会 —— 2
「ところでレッド、綺麗なお嬢さんもありがたいが、リューイとミナちゃんはどうした。」
ニックが言った。
「そうだぞ、レッド。お嬢――。」
「お前に話がある。」
レッドは自分の声で、あわててスエヴィの言葉を掻き消した。それから、あっと口を押さえたスエヴィを店の隅へと連れて行った。
そうして二人が抜けると、ようやく合点がいったシャナイアが、気を利かせてこの場を引き受けた。店主と農夫が、離れていく二人を怪訝そうに目で追っているから。シャナイアは、そんな農夫の方へ距離をつめて声をはずませた。
「ねえ、傭兵だったんですって。よければ、ぜひ、当時の武勇伝を聞かせていただけないかしら。」
レッドは前に一度、今と同じような状況でスエヴィを引っ張ってきた時と同じ場所にいた。そして、ほっとしたような、だがさすがに鋭く、どこか嫌な予感も拭いきれない様子のその顔と向かい合っていた。
「やっと帰って来てくれたんだよな、レッド。」
親友の肩をつかんで、スエヴィは言った。妙に力が入っている。おまけに食い入るような眼差しを向けられたレッドは、避けるようにややうつむいた。
「いや、それがその・・・ますます厄介なことに・・・帰るに帰れなくなっちまった。」
後半聞き取り難かったが、スエヴィには、レッドが耳を疑うようなことを言ったのが分かり、表情を変えた。
「お前・・・何言ってんだ。」
スエヴィの声はうなるようで、レッドは目を合わせることができないまま話を続ける。
「あのさ、ほら、アルバドルとエルファラムの皇子に酷似の二人がいただろ?覚えてるか?それで、今は彼らとも一緒に旅をしているんだが・・・俺が必要とされてるんだ。」
全く理解できずに、スエヴィはしばらく黙った。が、レッドの肩から腕を下ろすと、顔を寄せてこう声をひそめた。
「お前・・・何かヤバいことにでも巻き込まれたのか?その・・・顔が似てるってえのがもとで。」
「そう思ってくれても構わない。」
「けど、お嬢様は関係ねえだろ。早く城に――。」
「頼む!」
レッドはぴしゃりと言った。だが、ため息をついて、静かな声で話しを続けた。「これ以上、何もきかないでくれ。それから・・・」
ここでレッドは、やっとスエヴィの目を真っ直ぐに見た。一通の手紙を差し出して。郵送するつもりで持参したものだ。
それを反射的に受け取ったスエヴィは、顔をしかめた。
「何の真似だ。」
「これを直接、公爵閣下のもとへ。小公女様はお元気でいらっしゃることと、そして世間のありのままの姿を学び、日々自己啓発に励んでおられることを書いた。お前が預かってくれれば安心だ。お前は強いからな。」
「できるか、バカやろうっ!いい加減にしないと、本気で怒るぞ。」
スエヴィは呆れてカッとなった。
まだ大陸の西では激戦が繰り広げられているこの乱世にも、町が悲惨な戦場となり機能が停止することがなければ、手紙を出すことや届けることが可能な国は多くある。ただし、それゆえと、町の外では悪党が好き勝手にうろついていることもあり、確実ではない。
その手紙を突き返してやりたい思いでいるスエヴィに、さらにレッドは言葉を続けようとしている。
「それと、もう一つ。こう伝えて欲しい。」
レッドはしっかりと向き直り、相手がたじろいでしまうほど一途な眼差しを向けた。
「レドリー・カーフェイは、いかなる処罰も厳粛に受け止める覚悟でいると。」
これを聞かされたスエヴィは、とたんに恐ろしくなった。そして、不安になった。お前は何を考えているんだ。何をしようとしているんだ・・・。親友が分からなくなった。お前は・・・どうなっちまうんだ。
レッドの顔は真剣だった。真剣そのもので・・・仮面のようだった。




