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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第7章  ガザンベルクの妖術師 〈 Ⅳ〉
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思い出の場所



 聖なるイデュオンの森では捕獲が禁じられており、小動物の楽園となっている。小走こばしりに駆けて行くレッドの目の前をリスが警戒もせずに横切り、頭上では野鳥が自由気儘(きまま)に飛び回っている。しげみの中には、野ウサギの姿も見られた。レッドは、以前と変わらない森の様相に心を和ませた。


 レッドは、見覚えのある倒木とうぼくに手をかけてひょいと飛び越え、なつかしい場所にやって来た。堂々とそこへ飛び出せたのは、聞きれた音も声もしなかったからである。


 しみじみとその場所を眺め回して、レッドは、今見ている風景に、目に浮かぶ思い出を重ね合わせた。そして、今飛び越えた倒木を振り返る。迷うことなくみきの一部に目が留まった。少し妙な抵抗感を覚えながらも手を出して、表面を軽くなでた。ここに、いつも彼女が座っていた。記憶の中のほほ笑みははっきりしていて、レッドは瞳をかげらせた。そのまま、しばらくは無気力でたたずんだ。


「さあ・・・。」と、レッドはつぶやいた。


 この思い出の場所にあえて来たのは、ここならその時を鮮明に想定できるからだ。まず、何て言おう・・・状況の説明。そうだった、本来イヴには待っている人がいる。神々の中心。そのことに関わった成り行きでこうなったのだから。


 だけど、それでどうなる? 彼女はその運命を待ち望んでいるわけじゃない。


 カンッ!カシッ!

 カン、カン、カンッ!


 かすかだが、不意に上がったその音に、レッドは目を瞬いた。木刀を打ち鳴らす・・・聞き慣れた音。


 複雑な思いで、レッドはそれが聞こえてくる方へ目を向けた。どこからその音が上がったかがすぐに分かるだけでなく、その状況が目に見えるようだった。気迫満点の掛け声を上げている五人の少年の姿と、そして、彼女が管理している子供たちの基地。


 レッドは思案した。どちらにせよ、イヴとの再会はもはや避けられない。それなら・・・子供たちにも会って行こうか。


 レッドは思いきって、基地へと続く道を進み始めた。


 岩山のそばにあるその前では、木刀を持った少年たちが、待ちきれなくて、早くもそれを打ち合わせていた。今から練習場所へ向かうのに、まだ基地から出てきていない友人がいるからだ。


「えいっ!」

「やっ!」

「とーうっ!」

「どりゃっ!」


「ダメだ、ダメだ、全員脇が甘い!そんな構え方じゃあ、脇腹から攻められるぞ。足元もすきだらけだ。」


 どこからともなく聞こえたその声に、少年たちはハッとして腕を下ろした。自分たちがたてた音で、出どころがすぐにわからなかった。それは突然聞けなくなった、あこがれの人の声。だけど今聞いたのは、空耳そらみみじゃないだろ? そんな顔で四人の少年は顔を見合った。鼓動こどうは最高に高鳴っていた。それぞれが四方の別の木立こだちへ目を向ける。


 そして、見つけた。


 北の暗い木陰こかげから歩いてくる姿。背が高くて、広い肩幅と筋肉で盛り上がった腕、足が長くて・・・笑うと急に優しい顔になった。


 やがて、明るい木漏れ日の中にはっきりと現れたその人は、そこで立ち止ってニヤリと笑った。


 間違いない・・・。


「お兄ちゃん!」


 少年たちは一斉に叫んで、夢中で駆けだしていた。思わず木刀を投げ出して。


「よお、元気にしてたか。」

 レッドは、一番駆け足の早かったゼノを最初に受け止め、その脇を抱え上げた。


「お兄ちゃんだ、お兄ちゃんだ!」


「ほんとにお兄ちゃんだ!」


 ティムとロビンが勢いよくレッドの腰にしがみついていき、ヴァルは背後に回って、彼の背中にポカスカとげんこつを叩きこんでいる。


「ひどいよ、黙って行っちゃうなんてさっ。」


「そうだぞ、嘘つきっ。」と、レッドの肩車からゼノも頭突きを食らわせた。


「すまない、悪かった。」


 レッドはそこで、一人足りないことに気付いた。

 アレックである。その少年は、一人遅れて基地から出てきたところ、レッドを見つけていた。


 だが頭のよいアレックには、とっさの判断能力があった。アレックは、皆と同じようにレッドに駆け寄りたいと思う前に、サッと機転をきかせて、基地の中へ駆け戻っていたのである。


「あれ・・・アレックは?」


「お兄ちゃん!」


 呼ばれて、レッドは反射的に目をやった。


 そして・・・息を呑んだ。今はまだ昼下がり。時間的に有り得ないと思っていた。









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