表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第7章  ガザンベルクの妖術師 〈 Ⅳ〉
232/587

到着、始まりの町 

挿絵(By みてみん)


◇ 本章は 外伝1 『天命の瞳の少年 ― 第1部』/ 外伝2 『ミナルシア神殿の修道女』 に関係する内容となっています。



「いやー、熱い、熱い。まったく、やんなっちゃうねえ。」


「止めろ、ミーア。変な口癖くちぐせつけるな。まったく・・・誰の影響だ。」レッドはしかめた顔をリューイに向ける。「お前か?」


「怒るぞ。俺がいつあんな喋り方したよ。いるだろうが、ほら・・・。」


 そう言い返して、リューイが視線を変えた先にいるのは、黒髪の少年。


「熱い、熱い。まったく、太陽なんてさんさんと降り注いじゃって、熱気がむんむん・・・」


「あれか。」

「あれだよ。」


 ニルスでの悪夢もまだ生々しいままに、ようやくヴェネッサの町へと帰り着いた一行。夏の盛りで、立ち込める熱気にあえぎながら、今は曲がりくねった細い道を進んでいる。森を抜けて行く近道だ。


 町の門をくぐると、カイルのあとについて、彼らはイデュオンの森の方へ向かった。まずは、その祖父 ―― 彼らの出会いを予言した ―― に、最初の目的を果たしたことを報告するため。それは、神々の中心を見つけ出して、その気にさせることだった。とりあえず、カイルは伝えるべきことを懸命に述べ、分かってもらうことはできた。それに、ほかの仲間も見つけて説得できた。いちおうは。


 その一人、レドリー・カーフェイは、いつも通りに見せかけながらも、実は、先ほどから滅入めいり始めた自分に嫌気いやけがさしていた。


 まただ・・・。どうしても思い浮かべて、悩まされてしまう。こんな曖昧あいまいに見える態度は良くない。だが結局、はっきりさせられないまま帰ってきてしまった。そして、また始まる。今度はもっと長い旅になるだろう。決めなければならない・・・この先のことを。


 レッドは、周りにいる仲間たちを順ぐりに見た。正直、離れられそうにない・・・という思いが強かった。ならば、いい加減に気持ちの整理をつけないといけないことがある。その時、どんな態度をとればいいのか・・・。


「やあねえ、こんなにケガ人ばっかり連れて歩いてたら、なんか喧嘩してきたみたいじゃない。」

 ギル、レッド、リューイの三人を眺め回したあとで、シャナイアが言った。


 この声によって、レッドはいったん引き戻された。


 ニルスでの一件のせいで、レッドもリューイも、そしてエミリオまで、痛めた部位に手当てのあとをまだ残している。特にギルは、顔に大きな切り傷と、重傷を負った肩を縛っている包帯が、着衣の胸元からのぞいていてとりわけ目立っていた。


「あ、なんだその言い草は。俺たちは町を一つ救ったんだぞ。」


「まったくだ。」

 すぐさま言い返したリューイに続いて、ギルが大きくうなずいた。


「ギル、二枚目が台無しだな。」と、レッド。


「残るかな・・・。」

 ギルは肩をすくめてみせる。


「いいじゃないしぶくて。私は好きよ、そっちの顔も。」


「どうも。」


 するとレッドがフッとふきだして、シャナイアの方を向いた。にやにや笑いを浮かべて。

「それにしてもおかしかったな、お前の本気泣き。」


 シャナイアはカチンときて、横目にレッドをにらみつける。何のことを言われているかは、たちどころに分かった。


 ニルスで、事をやりおおせた仲間たちが帰還した時のこと。それまでは、シャナイアもまた別の恐怖を体験していた。何よりも不安で死ぬほど怖かった。守らなければならない立場で、力が及ばない状況に必死でえた。そんな時に、助けて欲しかった者たちの身も心配だった。そして、その全員が生きて帰ってきてくれた。


 だからあの時、安堵あんどと喜びのあまり駆け出していたのである。そして気づいたら、自分よりも背の高い誰かの腕の中にいた。優しく髪をなでてもらいながら、「ただいま。無事でよかった。」とささやく声が聞こえた。どれもさりげなくて、上手かった。それで受け止めてくれたのが誰か分かった。子供のように声を上げて泣いてしまったのは、そのせいだ。


「お前って、ああやって泣くんだ。」


「そうそう、俺の胸にしがみついて ―― 。」


「泣かないわよ ! もっとしとやかに泣けるわよ ! あなた達、あれを知らないから笑えるのよ! 動く死体よ ! ったら斬ったで、バラバラになっても動くのよ、信じられる⁉」


 ギルがレッドと一緒になってからかいだすと、シャナイアは本気でムキになった。


「はいはい。」


 こっちは、ケダモノに虫のお化けに妖怪と、立て続けに相手していた。信じられるか?と言ったやりたいところだが、彼女のことも想像がついたし、体を張ってミーアを守ってくれたことには、レッドは実際、こうしているあいだも言葉では言い及ばない恩を感じている。


 シャナイアは、そこで、ふと気付いた。無遠慮ぶえんりょな笑顔で、まじまじと見つめてくるギルの視線に。まるでミーアに向けるような眼差しに、シャナイアは胸がドキドキするのが分かった、が、目をそらしはしなかった。


「な、なによ。」


「やっぱりいいな、君のそういうところ。」


「はっ⁉」


 ギルは、ますます彼女の瞳をのぞきこむ。


「いや、可愛いな・・・と、思ってさ。ほんとは、俺の胸で泣いてた君も。」


 そんなことを、ギルは少年のような無邪気な表情と声で言った。


「俺は好きだよ、そっちの顔も。」


 かなわない・・・。負けじと見つめ返していたシャナイアも顔を赤くして、プイと横を向いた。


 一行は、ひび割れて倒れているブナの木を右手に見ながら、そこを通り過ぎようとしていた。


「雷かな・・・。」


 リューイがそうつぶやいたところで、レッドが急に思いついて足をはずませた。


「悪い、ちょっと寄りたいところができた。あとから行くから。」


 レッドはそう言い残すと、誰かにその訳を聞かれる前に、さっさと走って行ってしまった。カイルが呼び止める間もなく。


「僕の家、知らないんじゃあ・・・。」









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ