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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第6章  白亜の街の悲話  〈 Ⅲ〉  
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気絶の原因と呪力の反動



 光がおとずれた。

 ほのかな自然の光だ。

 窓から雲が見えた。

 青空は見えない。

 ここの空は、まだむらがる雲に覆われている。


 あせることはない、明るい光はやがて必ず射し込んでくるだろうから。


 今、左肩の傷口をつかんでひざを付いたギルに、エミリオが駆け寄って肩を貸した。


「カイルは・・・。」

 ここで、その意識がないことに気づいたギル。


「それが・・・。」

 エミリオは深刻な表情で言葉をにごした。


 エミリオがギルをカイルのもとへ連れてくると、リューイが頼むと言ったので、今度はレッドがカイルの頭を抱いた。


 リューイは腰のおびに手をかける。それは柔らかく織られた綿めん素材の帯。裸でいたい野生児のリューイは、重ね着が嫌いだ。だから、夜の寒さや、昼の陽射しを和らげるための外套がいとうをまとう以外は、上半身はいつもそれで締めた胴着一枚の恰好かっこうでいる。なにしろ、リューイが育った南のジャングル、アースリーヴェの気候は特殊で、冬の寒さが来ない。大陸でも唯一、常夏とこなつと言える場所である。


 リューイは、すぐにギルの肩を縛り付けた。本来なら、カイルが適切な応急処置をほどこしているはず。


 だが今、そのカイルが意識を絶ったまま身じろぎもしない・・・。


「なあ・・・おい、起きろよ。起きてくれ。」

 レッドがカイルのほおを何度も何度もはたいていた。


「カイル、頼む。目え開けろ。」

 リューイの声も震えている。


「う・・・。」


 かすかな声を聞き取った・・・気づいた。


 仲間たちはそろって大きな安堵あんどのため息をついた。 

    

 すると、カイルがいきなり目を開けて起き上がったのである。元気満々だ。


 リューイはぎょっとして飛びのき、レッドも唖然あぜんと口を開けた。


「何か・・・抜けたような。」


 カイルがつぶやいた。何に驚いているのか、どこを見ているのか分からない目をして。


 レッドは首をかしげた。

「ま・・・か?」


 すぐに理解したギルとリューイがケラケラと笑い声を上げた。


「あははは、まぬけ。そっか。」と、リューイ。


「違うっ、何か抜けたような気がしたのっ!」


 笑い転げる兄貴分らを前にして、あとはむっつり黙っただけのカイル。


 だが、この間も考えていた。体力はまだ限界にきてはいなかった・・・なのに、体を保てなくなった原因を。


 カイルはその時、何かがすうーっと抜けていくような感覚に見舞われたのである。自身の奥深くにひそんでいる特別大きな力のみなもととなるもの・・・例えば、そういったものが。気が遠くなったのは、まるでそのせいであるかのようだった。


 いったい、あれは何だったのか・・・。


 そう不思議に思いながら、カイルはヒリヒリと痛む自分の手足を眺めた。そして傷だらけだというのに、微笑して、心の中でつぶやいた。


 呪力の反動・・・この程度で済んだんだ・・・と。


 何はともあれ、エミリオも一安心といった笑みを浮かべていた。


 ところが、くつろぐ間もなく、示し合わせたように顔を見合わせる。


 地鳴りがしたと思った・・・。


「なんだ・・・。」


 リューイが怪訝けげんな声を漏らしたとき、同時に、今度は確かな揺れを感じた。上からパラパラと砂のようなものが降ってきた。それはたちまち、大きなかたまりに変わった。


「なんだっ⁉」


 異変に気づいて一斉に腰を上げた彼ら。しかし、どこから逃げ出せばいいのか迷ってうろたえた。この会場には出入り口がいくつかあり、それは今いる二階の通路にも設けられている。だが、どこを選んでも危険に変わりはないような気がした。


 この屋敷はじきに崩れてくる。


 あたふたしている間にも、この古い廃宮殿の瓦礫がれきに埋もれ、あえなく脱出は不可能となるだろう。とにかく、一刻も早く駆け出すのが賢明けんめいだ。出入り口は全て閉めきられた状態、そのまま押しつぶされれば、開けられなくなる!


 ギルは、真後まうしろにある最も近い扉に目をつけた。

「出るぞ!」


 急いで立ち上がった五人は、早くも屋根が落ちてきたこの舞踏会場をあとにした。







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