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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第6章  白亜の街の悲話  〈 Ⅲ〉  
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妖女ネメレの異変



 ネメレは見えないものにおびえていた。


〝また同じあやまちを繰り返すとは。〟


「お前は・・・。」


〝罪を重ねるか・・・。だが同情すべき諸事情により許しが得られた。しかし、このままでは行けぬ。その煮えたぎる憎悪ぞうおしずめよ。〟


 ネメレは憤然ふんぜんとして立ち上がり、虚空こくうに目をむいた。

「できるはずもない ! お前に何が分かる ! 愛しい夫を殺され、可愛い我が子を火炙りにされただけでなく、あの女は ! あの子はまだ産まれたばかりだった。成長を見ていたかった。幸せで平和だった日々のはかなさが、悲しみの深さが、にくしみの強さが、うらみのほどが、お前に分かるのか !」


 レッドやリューイの耳には、急に怒り狂った、だがどこかおののくようなネメレのわめき声だけが聞こえている。


「あの女・・・どうしたってんだ。」

 再びカイルのそばに戻ってきたレッドが言った。ますます訳が分からない。


 さらには、レッドとリューイがそうして玉座に目を向けていると、エミリオが急に体勢を崩して、ひざを折ったのである。


 レッドは驚いて駆け寄り、肩を貸した。


 何があったのか、その場から動いてはいないはずのエミリオは、ひどく乱れた息をしている。


「どうした?」


 うまく声が出せずにレッドを見ただけのエミリオは、反対の肩越しに振り向いて、そこで初めてカイルの様子を知った。


「カイル・・・。」


「気絶した。」


 レッドに体を支えてもらいながら、エミリオもそんなカイルの近くまで歩いて行った。意識を失っているその体は、いくつもの小さな切り傷を負っている。エミリオは眉根まゆねを寄せて見下ろした。


「これも、あの女のせいなのか。」

 リューイがつぶやいた。


 ギルのそばにずっと付いていたエミリオには、そうは思えなかった。ネメレは、カイルを見てはいないようだった。


「ギルは。」


「まだだ。」


 ハッと思い出して目を向けたエミリオに、レッドが答えた。


 三人はそこで、まだ弓を構えたままでいるギルの背中を見つめた。ギルは傷だらけだったが、すさまじい覇気はきを放っている。


 一方、ネメレは怒りに震えながら、まだ虚空こくうに向かって怒鳴り散らしていた。


「この町は永遠に呪われ続けるのよ。何もかもあの王家一族のせい。にくい・・・王が、王妃が憎くてたまらない。」


〝許して・・・。〟


 ネメレの頭上から、今度はなつかしい声がした。おだやかで繊細せんさいな、だがいつも悲しい響きを帯びていた・・・その声は・・・。


「その声は、姉さん。」


 愕然がくぜんとつぶやいたネメレは、その姿を求めて視線をさ迷わせた。


〝全ての始まりは、この私。私のせいで、あなたは恐ろしい力に取りかれてしまった・・・。でも気付いて。彼らは、あなたを助けに来た救世主。そう、この大陸の・・・。〟


「何を言っているの、姉さん・・・。」


〝私は、お前をやむなく封印した。だが今、再びい改める機会を与えられたというのに、この奇跡を無駄にするのか。強大な霊能力者であるお前に、なぜ彼らのもう一つの姿が見えない。〟 


 また、あの威厳いげんあふれる落ち着いた男の声・・・。


「彼らの・・・もう一つの姿。」


 虚空こくうから視線を真正面に移して見えたものに、ネメレはこおりついた。







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