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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第6章  白亜の街の悲話  〈 Ⅲ〉  
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何かくる・・・!



 その抜け道は、つややかな表廊下おもてろうかと変わらない施工せこうがされていた。おかげで歩きやすいが、回れ右もすみやかにできないほど幅が狭いところは、あくまで隠し通路であるから仕方ない。それに、道はあちこち枝分えだわかれしている。そのため、最初はリューイが前を歩いていたのに、気づけば、同行させられる羽目になったカイルの方が先になっていた。カイルは、そんな抜け道のあちらこちらへ入って行っては、暢気のんきな明るい声を上げているのである。これにはリューイの方が呆れてしまった。


「いろんな場所に通じてる。地下の迷路みたいだ。あ、あれ何だろ、昔の楽器かなあ。」


 興味津々のカイルは、そう言ってリューイを手招いた・・・が、ふとそののぞき穴から進行方向へ視線を戻した時、その目が、灯りの向こうにぼんやりと映る奇怪なものをとらえた。


 眉根まゆねを寄せたカイルは、急に黙り込んで目をらす・・・。


 黒くて細長い、しなやかな・・・またロープのようなもの。どこまで続いているのか分からない、得体の知れない物体。しかも、近付いてくるように見える。妙な音まで聞こえる。小さな穴から空気が漏れ出すような音。気管をこすりつけながら吐く息のような・・・。


「ね・・・ねえ。」


「どうした。」


 悠長にカイルのそばへ向かっていたリューイも、そのぶるぶる震える声に顔をしかめた・・・嫌な予感。


「何かいる・・・。」そうと分かった次の瞬間、カイルはハッと息を吸い上げ、目をみはった。「何かいるよ!」


 まさにそれを認めて、リューイも立ち止まった。その何かは急に加速してくる・・・⁉


「うわあっ!」


「戻れ、早く!」と怒鳴ったリューイは、ぎょっとした。「何やってんだ、何でうしろ走りなんだ⁉」


「だってせまいしあせって、うわっ⁉」


 カイルはもんどりうって、うつ伏せた。


「うわーん、助けて。」


 リューイの右手は思わず顔へ。

「ええい、ちくしょう恨むなよ。」


 すぐさま駆け寄ったリューイは急いでカイルを仰向あおむけにすると、自分は背中を向けた。というのは、カイルの両膝を引っつかんで、荷車でも引くようにいきなり駆け出したのである。


「わっ!」


 カイルの体は、仰向あおむけのまま物凄ものすごい勢いで引っ張られた。


「うわあぁぁああぁぁおおぉぉ・・・⁉」


「カイル、いけっほら、例のヤツやれ!」

「無茶言わないでよおっ、いたっ!」

「何しに来たんだ、それじゃあ。」

「自分が来いって言ったくせにいいっ・・うわ、あつっ、あちち、あつうっ!」


 頭をぶつけたうえ引き摺られているせいで、カイルはわめきながら海老えびのようにぴょんぴょんと跳ね回った。なんせ両足をつかまれているのだ。


「ああ、うるさいっ。もう少しだから辛抱しろ。こら、暴れるなってっ。」

「だって・・・、あちゃちゃ、燃える ! 鬼っ、悪魔っ、人殺しいいっ !」

「人殺し ⁉ 助けてやって ―― 。」


 リューイは口を閉じた。足をつかまれて、引き摺られて、頭を打って火傷やけどして・・・さんざんだな。助かってからもその気があるなら、あとでいくらでもうらまれてやるから。


 一方、王の寝室で待つほかの者は、騒がしい声やただならない足音が聞こえてくることに、険しくなる顔を見合わせていた。その声のせいで分かり辛いが、何か奇妙な音までしている。


「どうしたっ!」


 穴をのぞきこんでそう叫んだレッドは、とにかく広い場所へと必死でお荷物を引きずっているリューイに、危うく踏み倒されそうになる。


 レッドが素早く身をかわすなりリューイが戻ったが、そのリューイはカイルを引っ張り出して抱えたまま、「何か来る、逃げろ!」と叫んで、ソファの後ろへ飛び込んだ。


「何がっ⁉」

 とっさに動いたレッドも、テーブルの天板の陰に避難した。


 きくまでもなく、それはたちまち姿を見せた・・・!








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