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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第6章  白亜の街の悲話  〈 Ⅲ〉  
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抜け道



 体力がどうにか回復し、リューイとレッドが正気しょうきに戻った頃、大階段の踊り場まで下りてきた一行いっこうは、そこを今度は左へ向かい、そのまま上り続けた。


 奇妙な、ある意味恐ろしいことに、日常とはあまりに違うこの状況に順応してきたのか、逆に冷静さを取り戻すことができた。ほかに目を向ける余裕と、この宮殿に見ることのできる装飾の感想など、どうでもよい会話を交わす余裕さえ生まれた。


 最上階までのぼりつめると、そこには、派手な金縁きんぶちの重々しい扉が一つだけあった。扉一つ、つまり一部屋に対して廊下は長く、幅も広い。かんで目指していた特別な部屋に、上手くたどり着けたようだ。


「ここに扉は、豪壮なあれ一つしかないぜ。」

 レッドがそこへ向けて顎をしゃくった。


「着いたか。」

 ギルが言った。


「ああ、恐らく王の寝室だろう。上ってきた階段だけが、この部屋へ通じているのか・・・。」


 エミリオは背後の壁を振り返った。突きあたりがすぐそこにあり、先ほどいた隣の棟とは壁で遮断されているようだ。


「いよいよか・・・。」


 そう思うと緊張するのを隠し切れないレッドだったが、カイルは何かに落ちない顔をしている。そしてエミリオと目を見合った。


 ここへ来ても彼女 ―― 怨霊 ―― がいる感じがしない。おぞましい魔物の気配も。だが、この呪われた宮殿に居続けているせいで、いよいよ感覚が麻痺まひしてきた・・・ということも有りうる。


「開けるぞ・・・。」

 リューイが言った。


「待って。」と、エミリオ。


 それからリューイよりも前にきて、さきに重い扉に手をかけた。そうしながら、中の様子をうかがうように、じっと意識を向けている。


「扉の横にいてくれないか・・・。」 


 ここは言われるままに、ギルはリューイを手招いて右側へ。レッドも素直に動いてカイルを左側へ引き寄せる。


 扉を少し動かしたエミリオは、手を止めて耳をすまし、それから大きく開け放った。


 エミリオは背筋を伸ばして、部屋の前に堂々と立っている。


 誰も、何も居はしなかった。


「うっわあ・・・さすが。」

 後ろから顔をのぞかせて、カイルがそう驚嘆きょうたんした。


 レッドやリューイも、息を呑んで部屋中を眺めまわしている。


 古びてほこりだらけではあるが、素晴らしい部屋の様相だ。壁は連続するアラベスクで装飾され、壁面へきめんと天井との境目さかいめには、うねるような曲線模様(もよう)が駆使されている。天井画は偉才いさいを誇る画家に描かせたものと思われ、その大胆な構図に圧倒された。ばしらの優美な線刻せんこくは見事の一言に尽きる。


 そして、部屋の中央にどんと置かれた大きな寝台。周囲の装飾よりも目立っている立派なそれに、リューイは目をとめた。レッドと寝たものの倍はある。


「ここに寝るのか、一人で。」


「いや、あの伝説を聞く限りでは、一人で朝までおとなしくしているとは思えん。」

 言下にギルがそう言った。


 その言葉をよく理解できないまま、続けてリューイは、壁に掛けられている大きな風景画に歩み寄った。自分の身長以上もある。それには、このリトレア湖の静かな夕景が描かれていた。


「綺麗だなぁ。どうやったら、こんなふうに描けるんだろうな。」


「昔から腕のいい職人がそろう町だから、超一流の画家に描かせたんだろう・・・ん?」

 不意に違和感を覚えたギルは、絵画に手を伸ばして裏を見た。


 ギルは壁からそれを取り外した。


 その瞬間、あっと声を上げるリューイ。


 そこには空洞・・・いや、道があったからだ。職人によって作られた立派な通路である。


「抜け道か。」


「なるほど、ここから隣の棟へ行けるのか。」


 ギルやエミリオが言っている間に、カイルが再び光の精霊を呼び寄せて中を照らした。先まではよく分からないが、それは延々と奥へ向かって伸びているように見える。


 すると、リューイが身軽にひょいとそこへ飛び乗った。


「おいリューイ、何する気だ。」

 レッドがあわてて呼び止める。


「どこへ通じてるのかな・・・と。」


「止めておけ。」

 さっきまでの恐怖心はどこへいったのかという気持ちで、レッドは言った。


「すぐ戻るよ。」


 リューイは探検ごっこを始める少年のような顔をしている。


 レッドは、カイルの首根っこをつかんだ。 

「じゃあ、こいつも連れて行け。」


「なんで⁉」


「説明いるか?」


「そうだな、カイル頼む。」


「えーやだなあ・・・また何か出てきたらどうするの・・・。」


「だから頼んでんだろ。」







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