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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第6章  白亜の街の悲話  〈 Ⅲ〉  
209/587

強敵 



「ふさげ !」

 あわてて舞い戻ってきたレッドは、カイルに向かって命令した。


「ふさげ ⁉」

 カイルがすっとんきょうな声できき返す。


「早く、毛穴だ、毛穴 ! あいつめ体中から出してやがる !」


「毛穴のふさぎ方なんて知らないよ !」


「何か方法があるだろ、あの不思議な力で ! とにかく、これを何とかしてくれ ! 近付けやしない !」


 カイルは後ろへ下がると、大急ぎで戦闘術の体勢をとった。


 ところが、何てことだ !


 呪文を唱え、いくら呼びかけても精霊たちがこたえてくれない。いつものようにすみやかにやってきてはくれないのである。最悪の事態だ。


 カイルはあせった。こいつは僕のかなう相手じゃない・・・。


 精霊たちが圧倒的な力の差に辟易へきえきしている。恐れている。戦闘用の強い精霊がいうことを聞いてくれない。戦うための命令は下せない。


 お願い、僕らを助けて !


 カイルは声にせず叫んだ。


 だが、べそをかきながらもあきらめなかった。何とかしようと懸命に呪文を唱え続けた。そうする間にも、急速に焦りともどかしさはつのってゆく。気が気ではなかった。


 もはや無防備でいるカイルを、グイッ ! と伸びた魔物のひと振りが襲いかかる。


「カイル!」


 気付いたエミリオが飛び出して間一髪でたたき斬ると、それは大きく宙をうねり、波打ちながら引いていった。


 危うく体をもっていかれるところだったが、カイルは依然いぜん、精神統一を乱さず座りこんでいる。ほかへ気を回している余裕などなかった。もちろん、エミリオがそばにきてくれたと分かってからは、先ほど成功した裏技もやっている。だが足りない。何も応じない。けれど、これ以上の力を引き込もうとすれば、こたえる精霊がいたとしても、また暴走させてしまうことになる。


 エミリオは、カイルのそばにひかえて剣をしっかりと握り締めた。リューイや、それを助けようと奮闘しているギルやレッドを目の当たりにして居ても立ってもいられない思いだが、このあいだ逃げることもできないこの少年を放っておくわけにはいかなかった。


 リューイの体はじりじりと引き寄せられていた。本来、怪力のリューイであっても、迫力負けして思うように力が入らない。意識はかろうじて保っていたが、気力も体力も瞬く間に奪われてゆく。


 リューイはみるみる弱っていった。


「リューイ!」


 レッドが無我夢中で呼びたてた。行く手を茶色い縄のようなものでふさがれ、たったの一歩さえも思うように進むことができない。一人ではどうにもならない。苛立いらだってほかへ目を向けると、すぐそばで、同じように無数のそれを手当たり次第に斬りつけているギルの姿を確認できた。背中に負っていた弓は、すでに、魔物の攻撃が届いていない安全な場所に置いてきたようだ。


 リューイには返事をする気力などもはや残ってはいない。すさまじい威力でめ上げられて頭がクラクラし、すでに手足の感覚もほとんどない。もう意識も五分ともちそうになかった。


 レッドとギルは、共同で突破口を切り開こうと奮闘していた。そしてようやく、魔物がひるんだと見えた一瞬、右からも左からも視界を塞ごうとするものの隙間すきまを、レッドが飛び込んで抜ける。レッドはそのまま廊下を転がり、蛇行だこうして向かってくるものを突き刺して、続けざまにリューイのいましめを解いてやった。


「しっかりしろ!」


 崩れるように膝を折ったリューイは、そのまま廊下に両手も付いて体を支えた。急に楽になったがホッとするのも束の間、気付けば二本の魔の手がうように向かってくる ―― !


 リューイはあわてて飛び上がった。

「下っ、けろ!」


 わずかに逃げ遅れたレッドの左足に、長くて強いしなやかなものが巻き付いた。

 足をすくわれたレッドは数メートル引き摺られ、凄まじい力で引き上げられた。抵抗したが反撃もむなしく、死にもの狂いで振るった剣は、二本ともあっさりと手元から離れていった。そこで、最後の武器を右腕のベルトから引き抜き、くの字に体を起こして足に巻きついているものをき切ろうとしたが、またすぐに伸びてきたものに邪魔され、結局それも落としてしまった。


「レッド!」


 今度はリューイが助ける番だ。息もできないほどの圧迫感から解放されると、体力や感覚は即効そっこう戻ってきてくれた。だが、あらゆる角度から伸びてくるものが、複雑な攻撃を繰り出して邪魔をする。


 それらは、実に様々な動きをみせた。波打ったり蛇行したり、かと思えば、そら恐ろしい速度で直進してきたりする。


 横から襲いかかるそれをリューイはかがんでかわしたが、息つく間もなく、今度は三本が一斉に足元を狙う。リューイは、そのままの姿勢から前方へ飛び込んで逃げ場を求めた。途中、視界のすみに向かってくる嫌なものを見た。全身を落ち着かせているひまはない。リューイは手だけを着くと廊下を力いっぱい押し上げて、回転しながら次は後ろ ―― つまり先ほどいた場所 ―― へ飛び退いた。着地すると同時に、両脇腹に複数の気配を感じた。反射的にまたも飛び上がり、宙返りでさらに後退する。目の前で、獲物を捕らえそこなった六本がからみ合った。


 リューイは、ようやく自身を取り戻した。けることにかけては、何よりも得意だったはずだ。







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