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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第6章  白亜の街の悲話  〈 Ⅲ〉  
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巨大蜘蛛



 やがて、単一の階段が踊り場で折れて二つに分かれる、大階段室に出た。華やかな天井画により、さらにその壮麗さを演出している。


 ここでカイルは立ち止まり、エミリオを見た。

「分かる?」


「はっきりとは・・・。」と、エミリオは首を振った。


 これ以上は場所を特定できなくなったのである。なにしろ、その強烈な負の感情と冥界めいかいの力は、この宮殿じゅうから感じられるのだから。


「王の部屋じゃないか? なんとなく。」

 レッドが言った。


「じゃあ、とりあえずそこから当たってみるか。なら上だな。」と、ギル。


 リューイは早速さっそく、大階段の一段目に足をかけた。


 そうして上の階へとあがっていくうちに、リューイはまた異様な不快感に襲われた。霊能力などを持たない自分にも感じられる気配。何度覚えても慣れることのない恐怖。地下ではそれは突如とつじょとしてやってきたが、今度のものは迫り来る恐怖だ。あるいは、こちらから近付いているような・・・。強気でいようとしても腰はえ、全身が汗ばむのを感じていた。胸の鼓動こどうがおかしくなっていく。経験してきたばかりであるだけに、思い返すとゾッとする。


 思わずリューイはチラッと仲間たちを振り返ったが、なさけのない顔をしたのが自分でも分かった。


 そんなリューイに、ギルは苦笑いを返した。

「俺もだよ、リューイ。皆そうだ。」


 エミリオも苦笑して、うなずいた。


「言っとくけど、僕だってこんなのは初めてだからねっ。」


「俺だって、おっかねえよ。」


 そしてカイルもレッドも、同じようにひたいに汗を滲ませている。


 自分だけではないと分かり、心強い仲間がついていることを再確認して、リューイはいくらかホッとした。顔の冷や汗を拭い、毅然きぜんと前を向く。


 彼らは心の中で自身を叱咤激励しったげきれいしながら、途中から左右に分かれるその大階段を右へ向かった。血に飢えた攻撃のもとで勇敢ゆうかんに戦い、立派に使いこなしてきたそれぞれの武器を、ぎゅっと握り締める。そうすることで不思議と冷静になれるような気がした。


 階段を上りきって角を曲がろうとした時、常に仲間をしたがえていたリューイが、声も出さずにいきなり後ろへ飛び退いた。その体が、あとに続いていたエミリオとギルにぶつかりそうになる。


 だがその前に、リューイの体をもの凄い力で引っ張るものがあった。


 茶色くて細長い無数の・・・なわ⁉ 


 ほかの者たちは驚いて反射的に大きく身を引き、何が起こったのかを理解して目をみはった。

 

 あっという間に腰を縛られたリューイも逃れようと咄嗟とっさに鉄棒を振るったが、そのしなる強靭きょうじんなロープ状の何かに、やすやすとはじき飛ばされてしまった。真正面から伸びてきたものには、武器を失ってむなしく空いた両手首をいましめられた。


 いきなりそれらを仕掛けてきたのは、今目の前にいる、まさしく魔物なるものに違いないおぞましい生き物。それは一言で言えば巨大蜘蛛(ぐも)のような外見で、長いロープのような何かを口から吐き出し、こけむした丸い胴体から数本の足が生えていたが、例えられる蜘蛛くもが気の毒なほど、やはり醜く奇怪な生物だ。実際には、吐き出されているにごった茶色のものは、やはり蜘蛛の糸というより縄といった太さで、ねばり気もなく、むちのようにしなやかで頑丈なもの。驚いたことには、それらが口からだけでなく、胴体からも伸びてくることだった。それが手のように自在に動く。そしてリューイの体を縛りつけたのだ。足はと言うと、口のそばにある二本だけが、餌を待ちきれずにくねくねと動いているだけだった。のろい動きでぱくぱくと開閉している口には、小さな鋸歯のこぎりばが並んでいる。


 シャナイアがこの場にいたならば、正視に耐えないものだったろう。


「何あれ⁉」 

 カイルがわめいた。


「お前が一番(くわ)しいだろ!」

 レッドが怒鳴った。


「何言ってんだ、あれはっ・・・」気が動転するままにギルが言った。「蜘蛛くものお化けだ!」


 エミリオ、ギル、レッドの三人は、一斉に剣を構えた。


「けどあれ、糸じゃないよ ! まるでロープだっ。」

 カイルがまたわめいた。


「ちくしょう、反則だろ。どう攻めればいいんだ。」と、レッド。


「俺の大剣は、怪物を退治するために作られたんじゃないぞ。」


 文句を言いながらも、ギルは勢いよく駆け出した。リューイが今にも餌食えじきにされかかっているのである。つべこべ言っている場合ではなかった。


 レッドもすぐさま続いた。が、二人共あえなく行く手をふさがれてしまい、すんなりと進むことができない。








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